俳優はイメージをまとう仕事、視聴者にとっては私生活も気になるものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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ゲーム業界の新時代を切り拓くカリスマ経営者・鳴沢温人(二宮和也)とその妻・未知留(多部未華子)。鎌倉に豪邸を構えるセレブだが実は冷え切った仮面夫婦。娘を誘拐されてしまった二人は、もう一度力をあわせて犯人と対峙することに。
犯人から届く指示は「5億円用意してください」「警察を完全に排除するように」。困惑した二人は犯人と交渉しようとネットニュースで会見を開くが……日曜劇場『マイファミリー』(TBS系日曜午後9時)。冒頭からめくるめく展開で、スピード感に引き込まれてしまいました。緊張感のある引き締まった画面となっている理由は……。
まず主役の二宮和也・多部未華子、二人の演技の力が光っています。役にしっかりと集中し成りきっている。特に、仮面夫婦の二人の間に流れる微妙な空気感がリアルに伝わってくる。
妻から気持ちが離れた夫の、ちょっとクタビレた感じ、投げやりな感じ、しかし少しずつ気持ちが戻っていく感じ……冷たさと温かさの「あわい」を二宮さんが絶妙に演じています。
相手への反発と夫婦としての親密。その間の揺れ具合。妻が着替えようとすると、見てはいけないもののようにさっと視線をかわす夫。「こういう時ってこういう反応をするよね」と、視聴者を納得させる些細なしぐさにリアリティが宿っています。
娘が誘拐されて風呂に入る余裕もない二人が、体をぬぐうボディシートを分け合うシーンも実に細かくて巧い。最初は躊躇していた妻が、夫に手を伸ばして背中を拭く。何ともいえない官能感が夫婦の間に漂っている。セリフではなく、二人の役者の表現の力が微妙な空気感を伝えています。
そして演出の力。捜査1課・葛城刑事役の玉木宏、鳴沢のビジネスパートナー・立脇香菜子役の高橋メアリージュン。友人の三輪を演じる賀来賢人、東堂役の濱田岳とそれぞれ役者の個性を際立たせ、誰もが無くてはならない存在としてドラマ世界のパーツにはまっています。
脚本もいい。時代を的確に捉え説明的なセリフは少なく、事件を通して人間の姿を描き出そうとしています。ゾっとするような無機質な仕掛けも、効果的。
「みの しろきんが さきです」
「した がわなければ ころします」
スマホから届く犯人の声は妙に明るく抑揚がなくて乾いた機械音。単語が持っている深刻な意味あいと、かけ離れた声色と。二つの落差がまさしく不気味を演出しています。
というように役者、演出、脚本の三要素がバランス良く揃って秀作になりそうな予感。中でも敢えて、「変化」について注目点を挙げるとすれば多部未華子さんでしょう。