失敗を繰り返して人は成長するものだが、最近、巷で広がっているマルチ商法に若者を誘う集団の活動に関わってしまうと、やり直すことが難しいほど金銭的な問題だけでなく、仕事や人生のやり直しが難しくなっているようだ。ライターの宮添優氏が、3年の共同生活を含む約8年の活動を経て今は職業訓練をしている30代後半の男性から、どのようにして「本当に何もない自分」になってしまったのかを聞いた。
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筆者の前に現れたのは30代後半で同い年くらい、働き盛りの男性のはずだった。若干白髪まじりのヘアスタイルはついさっき起床したかのようで、髪も爪も伸び放題。申し訳ないが見た目こそ「小汚い中年」そのものではあったが、喋り方や挙動はどこか「子供っぽさ」を感じさせる。
「脱法マルチ? と言われると、僕はもうやってないんで今もそうなのかわかりませんが、そう指摘されても反論できる人がいるのかな。ルームシェアしている若い人は、今も一生懸命にやってるんじゃないですか」
下田雅也さん(仮名・30代後半)は、現在大手紙や民放ニュースなどで大々的に取り上げられている、とある「マルチ商法」集団に所属していた。報道等によればこの集団は、繁華街での声かけや街コンなどでターゲットを見つけてはマルチ商法に勧誘するだけでなく、メンバーを同じ共同住宅に住まわせて生活時間をコントロールするなどして一種の洗脳状態にし、組織から離れられなくさせるという。そしてこの下田さんは昨年まで、都内にある、集団メンバーが集まって暮らす共同住宅にいた。
「私は関西の方でマルチっぽいビジネスをやっていまして、数年前に東京に出てきたんです。東京には組織内で世話になっている『師匠』もいるし、そんな師匠を慕って、関西やいろんなところから何人、何百人ものメンバーが上京してきて、共同生活をしていると聞いて出てきました」(下田さん)
この組織、複数の関係者の話によれば、具体的な組織名は持たないが「事業化集団環境」という通称を持ち、東京や大阪を拠点にマルチビジネスを展開。師匠などと呼ばれるリーダー格たちからメンバーは言葉巧みに「経営者になる目標」を課せられ、経営者になるためだという理屈で月に15万円以上の化粧品や日用品を購入することになってしまうのだという。そして、月に15万円を支払う新規メンバーを集めれば集めるほど組織内での格があがる、店を持てるし師匠になれる、もっと高みを目指せと言われてその気になり、繁華街や居酒屋、街コン会場などで、土日平日関係なく、日夜怪しい勧誘に勤しんでいるというのだ。