「それって、あなたの感想ですよね?」「そういうデータあるんですか?」──テレビやインターネットを飛び越え、「論破好き」が私たちの身近な世界にも出没している。会話でマウントを取る新たな強敵は、想像以上に手ごわそうだ。5才の娘を持つ九州在住の小松晴奈さん(仮名・41才)は、「論破ブーム」で友達を失った。
「高校時代の友人で集まって、お花見をやろうという話になったんです。どこの公園がいいかグループLINEで話し合い、駐車場が広くて、子供への目が行き届く某公園にしようと決まりました。
ところが、後になってA美が『別の公園がいい』と言い出したんです。その公園は有名なのですが、街中で人も多く、いわば大人のデートコースとして人気の場所。A美は子供がいないので、そのあたりの事情がピンとこないのだろうと思って説明していたら、『じゃあ、こちらも論破しますけど』と宣言して一方的な主張をし始めた。
それにカッとなった別の友人が反論して、LINEは大論争になり、最終的にA美はLINEのグループを抜けました。学生時代は『論破』なんてしたがる子ではなかったのに、よほどストレスがたまっていたのでしょうか……」
日常生活で、「論破」という言葉を耳にすることが珍しくなくなった。もともと、インターネット掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」を中心に多用されていたワードだったが、2015年には『痛快TV スカッとジャパン』(フジテレビ系)の番組内で誕生したキャラクター・イヤミ課長が言い放つ「はい、論破!」という決めぜりふが人気となり、同年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた。
さらに最近では、2ちゃんねるの創設者であり、討論相手を独自の見解とトーク術で言い負かす「ひろゆき」こと西村博之さん(45才)が「論破王」と呼ばれ、ひろゆきさんの動画が子供たちの間でも大人気となっている。
しかし、当のひろゆきさんは、昨年、インターネットテレビ局・ABEMAのニュース番組に出演した際、「ぼくは『はい、論破』と言ったことは一度もない。だれかを論破するみたいなことを言ったことも一度もない」と明かした。エグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト(戦略研究家)の岡本純子さんは、昨今の「論破ブーム」をこう分析する。