新緑がまぶしいこの季節。フレッシュな気持ちで読書を楽しむのはいかがでしょうか? 注目の新刊4冊を紹介する。
『人生の経営』/出井伸之/小学館新書/880円
著者はソニーの社長や会長を歴任。退任後に会社を興し、84才の今も現役だ。直談判就職、技術者集団と“協歩”したCDやコンピュータの開発、追い出し部屋経験など波乱の逸話も面白いが、印象的なのは14人抜きの社長就任が1995年だったこと。ウィンドウズ95で世界がデジタルとグローバルに舵を切った年。後続世代にエールを送る。定年延長など喜ばず自分の価値を上げろと。
『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』/井上荒野/朝日新聞出版/1980円
小説講座での才能発掘に秀でた月島光一。咲歩は7年前、小説の奥義を授けるかのように月島から男性器を挿入された記憶に苦しみ、週刊誌に彼を告発する。咲歩、月島、月島の妻、芥川賞作家の洋子、〈#被害者は男〉とツイートする男子大学生など、当事者や関係者達の声をバランスよく響かせた多声小説。女性がセクハラに加担する事実から目を背けていない点もさすが著者。
『家族終了』/酒井順子/集英社文庫/660円
5人家族の中、祖母、父、母、兄と逝き、一人残った著者。私的家族史を刻みつつ家族観の社会的変化を体験的に綴る。前者ではB.F.が沢山いた母上の女っぷりが天晴れ。後者では家事をする夫が今や妻の勲章。その妻達は事実婚の著者を“嫁をしなくていいなんて最高”と羨ましがるとか。少子化対策を唱えながら旧弊な家族観に固執するお上。事実婚推奨の著者に共感する。
『ベルリンは晴れているか』深緑野分/ちくま文庫/990円
1945年7月、連合国統治下のベルリン。17才の少女アウグステの恩人が毒死する。彼女は恩人の甥に訃報を伝えようと、ソ連の大尉のそそのかしもあって、泥棒のカフカと共に旅立つ。ナチ、ユダヤ人迫害、孤児や浮浪児、レイプなどの戦争犯罪、ウクライナの地名も出るなど、まさに時宜を得た文庫化。リアルに再現された77年前に“歴史は繰り返す”の愚を思わずにはいられない。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年5月5日号