新型コロナウイルスの“感染源”とされた中国の武漢市で、現地に残された計828人の日本人とその家族を救ったのが、ANAのチャーター便だ。
2020年1月、武漢市は感染拡大を受けて空港閉鎖を決定。ANAも武漢発着の定期便を運休させたが、在留する日本人を帰国させるため、政府チャーターを5便運航した。ANAのこの英断は賞賛を浴び、茂木敏充外相(当時)が直々に感謝状を贈った。表彰式はチャーター便運航に携わった機長ら5人のスタッフが外務省を訪れ、メディアでも大々的に取り上げられた。
5人の“英雄”たちは、その後どうなったのか。
ANAによれば、「チャーター便運航を受けての昇進などはなく、変わらず業務に励んでいる」(広報部)とのことだが、その中でひとり、凱旋帰国を果たしたスタッフがいた。当時、ANA武漢支店空港所長を務め、チャーター便全5便の搭乗などを指揮した鶴川昌宏氏(54)だ。
鶴川氏は2021年4月付で成田空港勤務となり、現在は成田空港全体の運航に関する統括業務を行なっているという。鶴川氏が語る。
「コロナが落ち着いた2020年9月から武漢に戻り業務を再開していたのですが、昨年4月に日本帰任の辞令が出まして。当時、大臣に表彰されたのは身に余る光栄です。私はただ現場にいただけで、多くの仲間が頑張ってくれたおかげですから。一緒に表彰台に上がったメンバーとは、その後なかなか機会がなく会えていないんですけどね」
もっとも、表に出て表彰されたのは5人だが、実際にはチャーター5便を飛ばすのには何百人ものスタッフが関わっていたという。
「運航許可を取るために日本・中国の関係各所と調整したスタッフ、空港や機内での感染防止対策の準備に奔走したスタッフ。あの“救出劇”はひとりひとりがそれぞれの持ち場で頑張った結果でした」(広報部)
異国に取り残された同胞を救った英雄は、変わらず謙虚に自分の仕事と向き合っていた。
※週刊ポスト2022年5月6・13日号