人間の細胞の数は、およそ37兆個。気の遠くなるような数字だが、それをはるかに上回るのが、体にすむ「菌」の数だ。それらは生きるために不可欠な菌。新時代の美と健康のために大切なのは、殺菌でも滅菌でもなく「育菌」なのだ。
腸内はもちろん、皮膚や髪など、菌は体のあらゆる場所に存在し、人間が食べたものや体から出る皮脂や汗などをエネルギー源にして、人間が生きるために欠かせない働きをしている。こうした「常在菌」の種類は1000以上、数はなんと1000兆個にものぼる。
一般的に、ビフィズス菌などの人体に有益な働きをする「善玉菌」と、健康を害するO-157などの「悪玉菌」、そしてその時々によっていい働きも悪い働きもする「日和見菌」に分類できる。
善玉、悪玉、日和見に限らず、より多くの種類の菌がバランスよく、数多く存在するように、菌のバランスを整えることを「菌活」という。常在菌の状態がよくなれば、便秘解消やダイエット効果だけでなく、睡眠の改善、免疫力アップ、美肌・美髪効果、アンチエイジング……と、全身にさまざまなメリットが期待できるのだ。
その基本はやはり、腸内細菌のバランスを整えること。ヒトの体の常在菌の9割は腸内に存在し、数百種類、約60兆個、重さにして1〜2kgにもなる細菌を花畑にたとえて「腸内フローラ」と呼ばれている。ヒト細菌叢解析の専門家で岡山大学大学院教授の森田英利さんが言う。
「腸内の菌はお互いに関係し合いながらバランスをとっていて、菌の種類が多いほど、腸内環境がいいと考えます。健康な人と病気がある人の腸内環境を調べた結果、病気がある人は菌の種類が少ないことがわかっています」
なかでも森田さんが注目するのはビフィズス菌だ。健康な新生児の腸内細菌は、9割以上がビフィズス菌。そこから離乳食を起点にさまざまなものを食べることで、少しずつその他の菌が増えていくという。
森田さんは、奄美群島の高齢者の腸内細菌について調査・研究を行っている。南西諸島にある奄美群島は、100才以上の長寿者が全国平均の3倍以上いる“長寿の島”だ。
「奄美群島の高齢者の腸内フローラは、全国平均と比べてビフィズス菌の数が多いことがわかりました。ビフィズス菌は大腸で酢酸をつくり、腸内バリア機能を強化することによって、腸内の有害物質が体内に吸収されるのを防いでいるのです」(森田さん)
腸内環境をよくするには、とにかく善玉菌の割合を増やせばいいと思いがちだが、そう単純ではない。菌ケア専門家でKINS代表の下川穣さんが説明する。
「善玉菌と考えられていたものが人体に悪い働きをしたり、悪玉菌だと思われていたものが健康に不可欠だったりと、菌は時代や環境で変化します。ですから、ただ善玉菌を増やすのではなく、多種多様な菌を体内に存在させた方がいい。そのうえで、それらの菌を体の中で育てて、菌が働くじゃまをしないことが、菌活の基本です」
体の菌を増やして育てる習慣をトレーニングする「菌トレ」が、全身の健康と美しさの秘訣なのだ。
※女性セブン2022年5月12・19日号