GWど真ん中の今、ゆっくり読書を楽しむのはいかがでしょうか? 注目の新刊4冊を紹介します。
『教養としての「数学I・A」 論理的思考力を最短で手に入れる』/永野裕之/NHK出版新書/1023円
世界最古の大学は11世紀頃。一方東京大学の設立は19世紀末で、産官界の人材育成という即物性から出発した。では日本には今どんな人材が必要なのか。ITとAI(人工知能)の時代、一にも二にも数学だという。早大の政経学部は文系ながら2021年度よりいち早く数学を受験の必須科目にした。集合、図形、確率など泣きながら読む。脳が溶けそう。でもこれが現代の基礎知識!
『コスメの王様』/高殿円/小学館/1760円
牛より安い値段で神戸の花街に売られてきた少女ハナは、ある日ドブに落ちた利一少年を救う。数年後「花千代」となったハナの前に、洋装も板に付いた利一が現れる。芸妓として売れっ子になっていくハナ、粉石けんや無鉛の水白粉を開発してビジネスマンとして大成していく利一。激動の明治・大正・昭和を駆け抜けた男女を描くモデル小説で、各時代の風俗描写も物語の華に。
『ついでにジェントルメン』/柚木麻子/文藝春秋/1540円
女性達が緩く連帯する短編集で、特に「エルゴと不倫鮨」に快笑する。乳児をエルゴ紐に括りつけた女性がイタリアン創作鮨の店に飛び込む。卒乳まで我慢していた酒。ボトルで頼みがんがん食べる。ここは大人の社交場だと眉を顰める男に連れの美女が男の社交場でしょうと返すのも痛快。題名は英米式の呼びかけは「レディースついでにジェントルメン」くらいで丁度いいの意。
『雨心中』/唯川恵/集英社文庫/858円
養護施設で育ち、実の姉弟以上の絆で結ばれた芳子と周也。人を信じやすく、それゆえにどんな仕事についても長続きしない周也を芳子は懸命に護ろうとする。刃傷沙汰、逃亡、周也の恋、復讐。安息を得てもすぐにこぼれ落ちる展開が切ない。古典の世界だと思っていた「道行=心中」を、現代の持たざる者同士の受難の旅に翻案。唯川さんらしい筆致であっという間に読ませる。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年5月12・19日号