日本は地震大国であるだけでなく、地球上の7%にあたる111の活火山を持つ火山列島でもある。なかでも最大規模の噴火が想定されるのは、日本一の霊峰・富士山だ。その大噴火に備え、被害予測や避難計画の策定が進められている。
一般住民は原則として徒歩で避難すること─―。3月30日、富士山火山防災対策協議会が、富士山が噴火した際の新たな避難方針を示すと、近隣住民には混乱が広がった。
「万が一にも噴火が起こったら、一刻も早く車で逃げなきゃ助からないと思っていたのに。このあたりは車社会だし、徒歩で避難していて大丈夫なのか」(山梨県富士吉田市の住民)
今回の「徒歩避難」の方針は、昨年3月、17年ぶりに「富士山噴火ハザードマップ」が改定されたことを受けて、避難計画の見直しの中間報告として公表されたものだ。報告では、富士山噴火に伴う溶岩流(マグマ)が噴火から3時間以内に到達する地域の居住者は11万6000人に及ぶと想定された。その数は従来想定の実に7倍に上方修正された形だ。近隣住民が不安を抱えるなか、緊急時に安全に避難するためには、噴火で何が起こるかを正確に知る必要がある。
17年ぶりに改定されたハザードマップは、溶岩流や火砕流などの規模や流量、到達範囲、到達時間などを予測し、マップ化している。過去最大規模で富士山が噴火したら何が起こるのか。
1200度のマグマが焼き尽くす
〈20XX年5月X日、地鳴りのような轟音とともに、噴煙が日本一の霊峰の上空1万mを優に超える高さまで舞い上がった。1707年に起きた過去最大規模の「宝永大噴火」から実に300年超の沈黙を経て、富士山は煙と岩石、3世紀分溜め込んだマグマを一気に吐き出し始めた──〉
静岡県富士市にある富士山こどもの国。富士山の麓に94.5ヘクタールの公園が広がり、ポニー乗馬やカヌー体験を楽しめる施設だが、ここはハザードマップが示した「想定火口範囲」に含まれている。山梨県富士山科学研究所の吉本充宏主幹研究員が指摘する。
「江戸時代の宝永大噴火のような大規模噴火では、直径20~30cmほどの大きな『噴石』が火口から約4km先まで飛ぶ恐れがあります。小中規模噴火の場合でも2km程度先まで飛ぶ恐れがある。大きな噴石は秒速80mに達することもあり、直撃すると命を落とす危険性があります」