「ウクライナ戦争の転換点になる」と言われてきた5月9日──ロシアにとって重要な対独戦勝記念日を迎え、プーチン大統領の暴走はどこへ向かうのか。新たなステージに突入した戦争の展開について、小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター専任講師)に話を聞いた。
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第二次世界大戦でドイツに勝利した5月9日は、現代のロシアで「第2の建国記念日」のように位置づけられている。“特別な日”にしたのは、プーチン大統領だ。
大統領就任後は毎年、大規模な軍事パレードを実施。大国・ロシアには様々な人種が混在し、宗教も多様だ。国家をまとめるために、「我々はナチスを倒した仲間だ」という物語が必要だった。
ただ、首都キーウは落とせず、ロシア軍の旗色はよくない。当初は5月9日に“勝利宣言”をするとみられていたが、むしろウクライナ侵略を「特殊軍事作戦」としてきたプーチン氏が、「これからが本当の戦争だ」と言い出してより巨大な兵力を動かすことが危惧される。
東部でロシア軍の本格的な攻勢が始まれば、真っ平らな地形のため大規模な部隊同士の衝突になる。第二次大戦の独ソ戦で「史上最大の戦車戦」と呼ばれた1943年のクルスクの戦いも、この地域で展開された。ウクライナ側の抵抗も激しくなり、完全な力比べになる。
西側諸国がウクライナに大砲や対戦車兵器を提供し始めたのは、ロシアが東部の戦闘に集中すると言ったのとほぼ同時。つまり、西側も強大な火力を提供しないと、ロシア軍に完全に打ち負かされてしまうと考えている。ここで敗れれば、ウクライナはドニエプル川の東側の国土を失いかねない。
プーチン氏の戦争宣言の結果、ロシアの侵略が成功してしまうこと。それが、今後の最悪シナリオのひとつだ。