新年度を迎え、藤井聡太竜王(19)はタイトル戦の対局が続く。4月末には叡王の防衛戦が開幕し、6月からは研究パートナーであり、宿命のライバルとも言える永瀬拓矢王座(29)との初タイトル戦となる棋聖戦が始まる。大一番を前に藤井竜王の師匠・杉本昌隆八段(53)と永瀬王座に、若き天才棋士の「強さの本質」を聞いた。〈司会・構成/大川慎太郎(将棋観戦記者)〉【前後編の前編】
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最強棋士として将棋界に君臨する藤井聡太。19歳で五冠に輝き、8つあるすべてのタイトルを制覇する勢いである。藤井が活躍すればするほど、根本的な疑問が膨らむ。なぜ、藤井聡太はこれほど強いのか。他の棋士と何が違うのか。藤井をいちばんよく知る棋士は、師匠の杉本昌隆八段だ。藤井が何者でもなかった幼少期から接し、濃い師弟関係を結ぶ。藤井と最も対局している棋士は永瀬拓矢王座だ。2017年から藤井と練習パートナーという間柄で、これまで軽く100局以上は指している。タイトルホルダーの永瀬は、藤井の強烈なパンチを受け止めることができる数少ない存在だ。強者こそが強者を知るのである。藤井聡太と最も深い関係を持つ2人が、不世出の最強棋士について縦横無尽に語り合った。
──藤井さんと研究会をするようになったきっかけを教えてください。
永瀬:17年にネット配信で「炎の七番勝負」という企画がありました。藤井さんと7人の棋士を対戦させる企画で、その中の一人に私も選ばれました。結果は私が勝ったんですけど、その対局で強く印象に残ることがあったんです。藤井さんは序盤から時間をたっぷり使って考え続けました。急所の終盤戦に時間を残すのが普通なのに、当時14歳という若さにもかかわらず一切妥協する姿を見せなかったんです。
──その姿を見て、練習将棋の相手になってほしいと思ったのですか?
永瀬:はい。その後に藤井さんのメールアドレスをある方から聞いて申し込みました。当時の私はタイトル挑戦を1回経験していました。実際にタイトルを獲得するにはあと一押しが必要だと感じていて、起爆剤が欲しかった。それで藤井さんにお願いしたんです。
杉本:「永瀬先生と研究会をやることになりました」と連絡がきたので、「名古屋にある私の研究室を使ったら」と提案しました。将棋会館は東京と大阪にあるので、愛知県在住の藤井竜王は練習相手がいません。よくぞ東京から来てくれたと思いました。
―─研究会の日のスケジュールを教えてください。
永瀬:朝10時から始め、1局指してお昼を食べます。それから2局指すと夜の8時くらいになるので、夕飯を一緒に食べると東京に帰る電車はいつも終電ギリギリですね。
100%の集中と「忘れ物」
杉本:2人は顔を合わせると雑談もせずにすぐ対局を始めるんです。
永瀬:雑談する文化がないんです。実際の対局でもしないじゃないですか。
杉本:永瀬さんと藤井竜王は練習将棋でも公式戦となんら変わりません。研究会を調整として指す人もいるし、練習将棋で粘るのは相手に失礼だという考え方もある。でもこの2人は競り合った内容で延々と秒読みが続いて、なかなか終わらない。
永瀬:そうですね。持ち時間が双方30分なので1時間半から2時間以内に終わるのが普通ですが、3時間以上かかったこともありました。