1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、地方競馬からの出戻り馬がきっかけ一つで強くなって中央に復帰した話についてお届けする。
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少し前の話になりますが、連休前に出走した4歳馬についてお話しします。
3歳以上の馬はすべて藤沢和雄厩舎からの転厩馬ですが、そのうち3頭の4歳馬は少し変わった経歴です。他の厩舎で中央デビューしたものの結果を出すことができず、未勝利のまま地方ホッカイドウ競馬に転出。中央に復帰するための規定の勝利をあげ、馬主さんの希望により藤沢厩舎で預かることになった。
共通しているのは、3歳の早い時期に地方競馬へ出したこと。中央の3歳未勝利戦で惜敗していた馬が地方へ移籍してからだと強い馬が揃ってくる。馬主さんは、3歳未勝利戦がなくなる8月末ギリギリまで中央で走ってほしいと思うでしょうが、ある程度早い時期に区切りをつけて再スタートすることも一つの手でしょう。藤沢先生は地方で成長を促せば何とかなると感じるものがあったのかもしれません。その判断は調教師にとって重要なミッション。中央に戻ったら僕の厩舎でも預かるということで承諾していただきました。
ただし地方で連勝したといっても中央とはレベルが違うので、再入厩しても最下級条件の1勝クラスでさえ勝ち負けになることは難しいものです。それでもジランドールは復帰初戦で4着になりました。
ダイナストーンは4月24日に武豊騎手が騎乗して話題になりました。スタートよく果敢に逃げ、あわやと思わせました。最後は3着でしたが、勝ち馬からコンマ3秒と持ち味を発揮、さすが名手!
もう1頭のクロパラントゥは2歳にデビューしてから3戦して9、12、10着で、3歳の4月にはホッカイドウ競馬へ転出。3連勝して3歳6月に再登録されてから中央でも3連勝してオープンにまで出世しました。
こういうことは極めて稀で、この馬にとって何がよかったのかは分からない。中央で走っていた時は別の厩舎だったので、どういう状態だったかわからないし、強い馬、好調な馬が相手だったのかもしれないし、馬場が合わなかったのかもしれない。そんなことで負け癖がついていてちょっと腐っていたけれど、地方で少し楽な相手と走って勝ったら、よかったよかったって褒めてもらっていい気分になって、俺はもっと自信もっていいんだなって思うようになって―まあ、こればかりは馬がそう言っていたわけではないんだけど(笑)、人間も、そういうところ、あるじゃないですか。分かったのは、馬も人間もあきらめちゃいけないということなのかもしれません。