【著者インタビュー】横尾忠則さん/『原郷の森』/文藝春秋/4180円
【本の内容】
《頭髪を刈り上げた黒いポロシャツにベージュ色のスリムなスラックス姿》でY君に近づいてきた三島由紀夫は言う。《これからは、君のために、君のお好みの芸術家達や歴史上の人物をこの森の中で出会わせる。(中略)この森は君のために作った森だということをよく覚えておくといいよ》。原郷の森では、運慶、北斎や若冲、コクトーやロダン、織田信長、ヒトラー、猫のタマまで、時空を超えて饒舌に語り出す。芸術論や映画論、死生観、文学論を縦横に、時に脱線もしながら戦わせる「芸術小説」。
着想は、「子どものひとりごと」から
眠りから醒めた「俺」は、見慣れたアトリエではなく、深い森の中にいた──。森で出逢うのは作家の三島由紀夫、谷崎潤一郎、美術家のデュシャンといった死者たち。『原郷の森』は、200人を超す芸術家や宗教家、思想家が、Y(横尾忠則)論や芸術論を戦わせる文化サロンを現出させる、異色の長編小説だ。
「原郷」とは、言葉が始まる場所のこと。昨年開催された横尾さんの大規模な個展も「GENKYO 横尾忠則」で、副題が「原郷から幻境へ、そして現況は?」だった。
小説は、「子どものひとりごと」から着想を得たという。
「ちっちゃい子どもって、よくひとりでしゃべってるじゃないですか。ぼく自身、ひとりで物語をしゃべる子どもでした。ひとりごとなんだけど、いろんな人が出てきてざわざわ話す、そんなふうな小説を書きたいなと思いました」
亡くなる3日前にも電話で話したという三島のように親しかった人もいれば、ダ・ビンチやシェイクスピアといった歴史上の人物も、横尾さんが話したいと思うと、タイミングよく姿を現す。
「これはぼくが絵を描くときのやり方そのままですね。計画性が全然ない。最初は、なんでもいいから描いてみるんです。落書きから始めて、描いているあいだにインスピレーションが浮かぶので、そのインスピレーションに従って少しずつ絵が具体性をもってきます。
ぼくはアカデミックな美術教育を受けていないので、思いつきの連続なんです。描いている途中でドラクロアの絵がぱっと浮かぶと、ドラクロア風に描いてみる。ここはまた別の誰かがいいと思うと、すぐ鞍替えしちゃう。なんていったかな。歌を次から次へと続ける……、そう、連歌。連歌の感じで、絵も小説も書いていますね。なるべく頭を空っぽにして、頭に浮かんだものをどんどん書いていきました」