ロシアのウクライナ侵攻への経済制裁として政府は5月9日「ロシア産石油の原則禁輸」を発表した。さらに今後は、石油に続いてロシア産の天然ガス、石炭が禁輸となる可能性も高い。
日本が輸入する液化天然ガス(LNG)は発電のほか、都市ガスとして家庭に供給されている。ロシア産の供給がなくなれば生活はどうなるのか。一般社団法人プロパンガス料金適正化協会理事で消費生活アドバイザーの丸山晴美氏が語る。
「ガスは電気と同様に人間の生活に欠かせないライフラインです。日本企業はロシア産の調達が滞ることを想定して他国に販売するLNGの一部を日本に回せるか検討しているが、LNGは気化しやすく在庫を積み増すのは難しい面がある。さすがに供給が途絶えることはまずないと思いますが、今後、国際価格の急騰は当然予想されます」
すでにガス料金の値上がり幅は大きい。この4月の日本の天然ガス輸入価格は1年前の約2倍、都市ガスの料金も1年前から約25%値上がりした。
一般的に家庭でのガスの使用は4分の3が風呂などの給湯用、残る4分の1はコンロとその他で使用するとされている。仮に家庭で値上がり分だけ都市ガスの使用量を減らそうと思えば、お風呂なら4回に1回は入らない、コンロの分だけでカバーするなら5回の炊事を1回にする必要があるが、この先さらに値上がりが進めばこの程度では済まなくなる。
しかも、ガス料金の値上げは「飲食店」も直撃する。大量の油を長時間加熱し続ける必要のある揚げ物や、ガスコンロを長時間にわたって使用する必要がある煮込み料理などはメニューから消えるかもしれない。
石油価格の上昇は、暖房に重油ボイラーを使うハウス栽培や漁船の燃料費アップにも影響する。すでにハウスで生産されるタマネギやイチゴ、魚介類などの生鮮食品の値上がりを招いているが、天然ガスや石炭の禁輸は思いがけないところにも影響が出そうだ。
あまりイメージはないが、天然ガス不足は小麦、飼料用トウモロコシの国際価格上昇につながると予想されている。
窒素系肥料の主成分であるアンモニアは製造コストの大半が天然ガスで、欧米の大手肥料会社は天然ガス価格の急騰で減産を発表、肥料価格もハネ上がっている。米国では、肥料を多く使う小麦やトウモロコシから肥料が少なくて済む大豆への転作が進むと報じられた。
小麦や飼料用トウモロコシの多くを米国から輸入する日本は、農業や畜産業において、もう一段の値上げを迫られそうだ。