5月10日、第20代韓国大統領に就任した尹錫悦氏(61)。就任直後の世論調査では支持率が50%を超え、検事出身の新たな大統領に期待を寄せる声が集まった。肯定的な評価として目立ったのが、韓国大統領府「青瓦台」の機能移転と一般開放だが、取材を進めるとそこに懸念を抱く声も聞こえてきた。
青瓦台は日本統治時代の1939年に朝鮮総督官邸として建設された。1948年の韓国建国後は大統領府として利用されてきたが、尹氏は「(青瓦台は)権力の象徴」と指摘。大統領選で、青瓦台に置かれた公邸と執務室をそれぞれソウル市内の別の場所に移転させることを公約としていた。韓国紙記者が語る。
「大統領選での公約を速やかに実行した点は国民に評価されているが、当局は移転で警備上の新たな問題を抱えることになった。大統領の新公邸、執務室は約4km離れており、目抜き通りの『梨泰院路』を通る最短ルートの利用でも片道20分はかかる。この道は片側2車線で常に渋滞が激しく、周辺には商業ビルや飲食店、さまざまな店舗が立ち並び、人の往来も多い。移動が敷地内で済んでいた今までに比べ、警備が難しくなるのは明らかだ」
元徳島県警察警部で警視庁への出向経験がある秋山博康氏もこう指摘する。
「車での移動は停止した時が最も危険とされます。白バイや警護車が先導し、すべての信号を青にしても、道路状況次第では低速走行や停車することもあり得るはず。その隙を突いて不審者が攻撃を仕掛けてくる可能性も捨てきれません。移動のたびに、沿道に立ち並ぶ建物や往来する人々を厳しくチェックすることも、現実的には不可能と思われます」
新公邸の立地にも不安材料はある。公邸はこれまで韓国外交部長公館だった建物をリノベーションしたもので、敷地総面積は約4000坪。敷地の大部分は雑木林に囲まれているが、わずか200m先には20階を超える高層マンションや中低層の住宅が乱立し、公邸の様子が見渡せる建物もある。
「朴正煕政権下の1968年、北朝鮮特殊部隊による『青瓦台襲撃未遂事件』が発生すると、韓国当局は周辺道路の一般通行や、青瓦台を背景とした写真撮影を禁じるなど、長らく厳重な警備体制を敷いてきた。前大統領の文在寅氏によって警備体制は大幅に緩和されたが、青瓦台内外郭では韓国警察の最精鋭部隊『101警備団』をはじめ、約3000名の警察・軍兵力が警備に当たっていた。移転で人員が分散すれば、警備は手薄にならざるを得ない」(前出の記者)