もし大金が予期せず自分のもとに転がり込んだら──誰もが一度は想像したことがある、そんな夢物語が、山口県阿武町で実際に起こった。新型コロナウイルス対策の給付金を、対象だった463世帯に10万円ずつ振り込むところ、阿武町の職員が誤って、24才の男の口座に4630万円を振り込む手続きをしてしまった。山口県警は18日、この男、田口翔容疑者を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕した。
誤送金は、山口銀行の指摘により、4月8日に発覚した。同日、役場職員が田口容疑者に連絡し、即座に返金手続きである「組戻し」を依頼し、田口容疑者も一度は了承した。しかし、職員と公用車で田口容疑者名義の口座がある宇部市内の銀行に移動した途端、田口容疑者は態度を改め、組戻しを拒否。同日中に60万円以上が引き出され、その後も毎日のように残高は減り、約2週間でほとんどの金が口座から消えた。岡野法律事務所九段下オフィスの弁護士・伊倉秀知氏が解説する。
「間違って振り込まれたお金ですので、田口容疑者にとっては『不当利得』に当たります。そのため町側は、不当利得返還請求のために民事で訴訟を起こしました。また、刑事事件になれば、銀行に対する詐欺罪や窃盗罪に問われる可能性もあります」
このお金が使い切られていた場合、返還はされるのか。
「回収は原則本人名義の預金や不動産から行いますが、今回のケースではあまり期待できません。現金として残っていないという以上、時計や株といった『財産』を購入したことを特定できれば、それらを差し押さえ、少しながら取り戻すことは可能です」(前出・伊倉弁護士)
田口容疑者は大金の用途について「オンラインカジノに全額つぎ込んだ」と説明しているという。ITジャーナリストの井上トシユキ氏が解説する。
「オンラインカジノはスマホやパソコンで利用するもので、ほとんどが海外の企業によって運営されています。そのカジノだけで使えるバーチャルマネーを購入し、賭けをします。このバーチャルマネーを暗号資産に変える仕組みもあり、現金や預金よりも、税務署などの公的機関から隠しやすい」
日本ではカジノでお金を賭けると賭博罪に問われるが、カジノが合法の国の事業者が運営しているケースも多い。仮に全額をギャンブルでスッてしまっていたら回収は困難だ。まだ残っていたとしても、バーチャルマネーや暗号資産に変わってしまっていたとしたら、回収のハードルが上がることは想像に難くない。
5月18日、田口容疑者は弁護士に対し、返済の意志があると伝えたと報じられた。それを受けて、阿武町の花田憲彦町長は、「素直に喜びたいと思う」とコメントした。