人口わずか3000人程の長閑な町、山口県阿武町の役場が揺れている──。新型コロナ対策関連の給付金4630万円を同町の24歳男性に誤って振り込んだ問題で、阿武町は5月12日、男性を相手取り全額返還を求めて山口地裁萩支部に提訴。同日、阿武町はホームページに町民への経緯説明文を掲載し、男性の実名が田口翔であること、また住所の公開に踏み切った。
そして5月18日、山口県警は電子計算機使用詐欺の疑いで田口容疑者を逮捕した。
「誤って入金されたことを知りながら、ネットバンクを通じて口座を振り替え、不法な利益を得た疑いです。田口容疑者はこれまで『ネットカジノに全額使った』と説明してきましたが、真偽は不明。県警は金の流れや動機について追及する方針だといいます」(全国紙記者)
誤送金の金を引き出した後の口座残高は僅か6万円と報じられており、全額回収の目処はたっていない。差し押さえをしたくても当人に財産がなければ回収できないからだ。
それどころか、今後は田口容疑者からの“逆襲”の可能性さえ囁かれているという。
「個人情報を公開した町役場に対し、プライバシーの侵害や名誉毀損で損害賠償請求をする可能性があると言われているのです」(同前)
実際に田口容疑者に提訴は可能なのか。グラディアトル法律事務所の清水祐太郎弁護士が語る。
「逮捕で名前が報じられたとはいえ、阿武町の公表はその前なのでプライバシー侵害にあたる可能性はあります。公共の利害に関するものなので、公益目的があれば個人情報の公表は名誉棄損となる可能性は低いですが、プライバシー権については人口の少ない町で同姓同名男性がいる可能性は低いこともあり、自宅の地番まで公開する必要があったかどうか、難しい判断になりそうです」
過去、被疑者の住所を地番まで掲載した静岡新聞がプライバシー侵害で訴えられた件で、静岡地裁はプライバシー侵害を認める判決を出したが、高裁では一転、訴えを棄却している。裁判所でも判断が分かれるのが実情だ。
「ただし、仮に田口容疑者が勝訴しても、慰謝料は数十万円が相場です」(清水弁護士)
それでも一矢報いるために動き出すか。田口容疑者の動向から目が離せない。
※週刊ポスト2022年6月3日号