2月21日にプーチン大統領がロシア軍のドンバス派遣を命じて本格化した、ロシアによるウクライナ侵攻は、3ヶ月目になった今も終わりが見えない。多くの国からロシアの現体制への批判と非難が集まるが、同時に世界各地でロシアに関わるものすべてに対する、言いがかりとしか言えない嫌がらせや、ときにはヘイトクライム(憎悪犯罪)まで起きている。それは、日本も例外ではないらしい。ライターの森鷹久氏が、錦糸町などで働くロシアや東欧出身の女性たちに、投げつけられる悪意に疲弊する今について聞いた。
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ロシアによるウクライナ侵攻から始まった紛争が苛烈さを極める中、世界中にいるロシア人やウクライナ人たちは、日常を送ることが難しくなっている。G7加盟国をはじめとした主要国は、ロシアによるウクライナと国際平和を侵害する行為だと侵略戦争への非難を繰り返している。そして世界各地でロシアやロシア文化に対する差別や嫌がらせが報告されており、我が国においてもロシア料理店や物産店への嫌がらせなどが発生していると報じられている。
「私たち従業員同士はとても仲が良いです。でも、国には家族がいて、明日死ぬかもしれないという怖さもある」
こう話すのは、都内有数の繁華街を要する東京・錦糸町のロシアンパブに勤務するイリーナさん(30代)。ロシアンパブと名乗ってはいるが、従業員数名のうちロシア人は半分程度で、イリーナさん自身はウクライナ出身、他にもポーランドやベラルーシ、ルーマニアなど、ロシア以外の東欧地域出身者もいるといい、最近の話題はもっぱら戦争にまつわるものばかりだという。
「もちろん戦争の話はするけど、私たちにはどうしようもない。戦争が終わること、国の家族や友達の無事を祈ることしかできない。ロシアの人との喧嘩? それは全くないです。ウクライナも心配だけど、ロシアの人はやっぱりロシアが心配だし、みんな故郷や家族、友達のことを思わない日はないのです」(イリーナさん)
日本国内でもロシアやウクライナ出身者が様々な意味で注目を集める中、彼ら、彼女たちに対する誹謗中傷めいた言説が、ネットでもリアルでも飛び出すことが少なくない。一方で当事者であるイリーナさんたちは、そんな誹謗中傷に反論する気力も沸いてこないほど焦燥し、神経をすり減らす日々が続いているのだ。だからこそなのか、当事者間で、母国の立場に沿って主張し合う、ということもほとんどない。