梅雨入りを前にじめじめとした天気が多くなり、気持ちも落ち込みがちなこの時期、気分転換に読みたい、おすすめの新刊4冊を紹介する。
『マスカレード・ゲーム』/東野圭吾/集英社/1815円
とうてい納得できない刑期で世間に戻って来た犯罪加害者達が次々と殺される。遺族による復讐殺人か!? 彼らが集う箱崎のホテル「コルテシア東京」に潜入する新田警部。コンビ役の山岸尚美も急遽ロス支店から呼び戻され独断専行の女刑事と火花を散らす。著者にしては珍しくさまざまなタイプの女性を描き込んでいるのが印象的。シリーズが次幕に移る予告にも胸が高鳴る。
『娼婦の本棚』/鈴木涼美/中公新書ラクレ/946円
知的で自己開示も赤裸々な読書案内。キャバクラ嬢やAV女優をしていた自分を世界に繋ぎ止めてくれたのは本だったと活字愛を語る。岡崎京子の『pink』に見る愛と資本主義、山田詠美の『蝶々の纏足』を借りて書く自尊心救済策としてのセックス、斎藤美奈子の『モダンガール論』にあるわきまえない女の歴史。佐野洋子の『シズコさん』には自分と母との関係を重ねる。
『作家との遭遇』/沢木耕太郎/新潮文庫/693円
これまでの作品から作家論と呼ぶべきものを抽出して編む。まとめて読むとまた新たな感興が。特に染みたのは吉村昭論。氏の作品は小説なのかノンフィクションなのか。メビウスの環のように繋がっていることを精緻に解き明かす。近藤紘一の優しさの源泉、高峰秀子の天性の文才、瀬戸内寂聴の『美は乱調にあり』の唐突な終わり方。作家との縁など著者の身辺を読む喜びも。
『人生おろおろ 比呂美の万事OK』/伊藤比呂美/光文社文庫/682円
西日本新聞で24年担当している人生相談の中から、50〜60代の悩みを集める。長年同居の姑との関係、息子や娘の行状、職場の理不尽な仕打ちなど年季の入った悩みが多い。例えば離婚を考える人には「今がその時!」とか「壊れる家族ならいつか壊れる」などと世間体には目もくれず、“自分”を生きろと薦める。「がさつ・ずぼら・ぐうたら」。ホントこれ、人生後期のご褒美ですね。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年6月2日号