スーパーなどで販売される野菜に、変化が起きている。「糖度」が高い野菜が人気となっているのだ。どのようにして野菜は甘くなってきたのか──。
野菜の甘さに拍車がかかった背景には、長きにわたる「ブランド野菜」の競争がある。元毎日新聞記者で、『誤解だらけの遺伝子組み換え作物』などの著書がある食・健康ジャーナリストの小島正美氏が語る。
「歴史を振り返ると、1980年代半ばに糖度が高く、果実が固いトマトが登場して人気を博しました。その後、2000年代半ばに品種改良で甘くなったイチゴが登場し、産地のブランド化が始まった。それが野菜にも波及して、色々な産地が高糖度の野菜をアピールする『糖度競争』がスタートしたんです。
消費者の嗜好も、苦みや酸味よりも甘さを好むようになり、生産者や販売者は、甘さという付加価値があれば売り上げが伸びることを学びました。そこで各地の農協が糖度計を取り入れ、糖度を計って『糖度○度』を売り文句にした野菜が次々に店頭に並ぶようになったのです」
高糖度野菜は供給サイドにとってもメリットが大きい。自然食品店ナチュラル・ハーモニー代表の河名秀郎氏が語る。
「たとえばトマトの場合、栽培時に水分を抑えることで甘みを上げますが、同時に水分が少なくなると持ちも良くなるため、物流に耐えられる。棚持ちが良い野菜は、流通業者や小売店も望むところなんです。
そもそも野菜は、地方から東京などの大都市に出荷するため、日持ちを良くする目的で品種改良が進みました。また、スーパーに画一的なサイズの野菜を置くためにも品種改良が必要だった。このように生産者や流通業者のそれぞれのニーズがマッチして、品種改良の技術が進み、野菜の糖度競争が激化したのもその表われです」
1994年の農業産出額ピーク時から比較すると、農産物の品種登録数は、2021年までに2.9倍に拡大。ブランド化が進んだ結果、現在はトマトやニンジンだけでなく、キャベツやパプリカなども糖度10を超えるものが登場し始めているのだ。
一方で甘すぎる野菜には違和感の声も上がる。小島氏が語る。
「アメリカやヨーロッパをよく取材しますが、日本ほど甘さを求める国はありません。それは日本人の味覚が進んだ証拠でもありますが、このまま甘くて食べやすい野菜に傾倒していくと、むしろ多様な野菜の品種が減り、味のバリエーションが楽しめなくなるかもしれません」
※週刊ポスト2022年6月3日号