千葉県船橋市立船橋高校、通称“市船”(いちふな)には、魂の風が吹いている。
今年、市船野球部は28年ぶりに春季千葉県高校野球大会を制覇。5月22日には春季関東大会に出場し、山村学園(埼玉県) と対戦した。市船が試合をする際、スタンドでとりわけ大きく響いている応援曲は「市船soul」だ。作曲したのは、5年前、がんにより20歳で亡くなった同校OBの浅野大義さん。
浅野さんは正直なところ、市船が第一志望ではなかった。しかしなんとか滑り込んだ市船の吹奏楽部で、生涯の師となる高橋健一先生に出会う。
部活動をする上では、吹奏楽部員なのにソーラン節を踊らされることにも、部員たちと不満のぶつけ合いになるミーティングが頻繁に開催されることにも、疑問を抱いた。もがいた。「何の意味があるのか」とぶつかった。そうした時、いつも高橋先生から教えられたのは、「人間関係」を築くことの大切さ、そして「今しかない時間を大切にする」ことだった。
思春期の浅野さんを、先生の言葉は深く豊かに成長させた。しかし、在学中に作曲の楽しさに目覚め、音大に進むも、浅野さんの身体に胚細胞腫瘍が見つかる。がんだった。
そんな浅野さんが、仲間とともに人生を生き抜いた姿を描いた映画『20歳のソウル』が5月27日から公開されている。浅野さん役を神尾楓珠、吹奏楽部顧問の高橋先生役を佐藤浩市が演じ、福本莉子、佐野晶哉(「Aぇ!group」/関西ジャニーズJr.)、尾野真千子らが共演。音楽を愛した浅野さんの、熱く生きるものがたりを紡いだ秋山純監督に、話を聞いた。
「高校野球」がつないだ縁
2017年1月26日。朝日新聞「声」欄が、浅野さんの母・桂子さんからの投稿を取り上げた。浅野さんの告別式に160人以上もの部員、OB、OGが集まって演奏をしてくれたことに触れ、生前、浅野さんが築いた友と恩師との絆に感謝する内容だった。そして同年4月2日付、今度は同紙の「窓」というコーナーで、記者により浅野さんと「市船soul」のストーリーがつづられた。
何気なくその記事を目にした秋山監督には、どうしようもなくこみ上げるものがあった。というのも、監督自身、甲子園を目指す高校生と、それを応援する人たちの絆には並々ならぬ想いがあったためだ。