視聴者にとって鮮烈な印象を残すかどうかは、必ずしも役の大きさに比例しない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が朝ドラを分析した。
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これほど賛否両論渦巻くNHK朝ドラって、見たことない。『ちむどんどん』は本土復帰50年を迎えた沖縄を舞台に、兄と三姉妹、母という家族の物語。ヒロインの次女・比嘉暢子(黒島結菜)は高校を卒業し東京へ出て、銀座の高級イタリアンレストランで修行中です。
十分な準備もせずに当てずっぽうに上京した暢子ですが、トントン拍子に住むところも仕事も見つかる。このヒロインの性格は思い込みが強くてプラス志向、こうだと思えばズンズン我が道を進んでいく。レストランのオーナーに意見までしてしまう。そうした暢子の天真爛漫さ、天衣無縫ぶりが、しかし視聴者には「努力が足りない」「感謝の念がない」「礼儀がなっていない」と突っ込みどころ満載のようです。
私個人としては、このドラマにはもう一人の正統派ヒロインがいる。そんな印象を抱いています。そのヒロインとは……長女・良子(川口春奈)です。
たとえ兄の賢秀(竜星涼)がバーガー店内で大暴れをし借金したままドロンしても。金持ちの息子・金吾(渡辺大知)がわーわー大声で良子に結婚を迫ってきても。ドタバタ喜劇の空気に、どこか浸食されずに一人気品を保っている川口さんがいい。一服の清涼剤のようです。
川口さんはキャラクターの設定や人間関係の全体に目を配り、「貧乏な一家を支える長女としての良子」という人格をしっかりと掴んで演じ切っています。そう、どんなに回りがハチャメチャになっても自分の芝居を続けている。そんな川口さんが自然と中心柱のように見てきてしまうのは、私だけでしょうか。
ここで良子はどんなリアクションをすべきなのか、するのが自然なのか、演技でピタリと見せてくれるので視聴者としては「ほっと」する。簡単にいえば、ヒロインの暢子に反発ばかり覚えてしまうけれど、良子にはスムーズに感情移入できる。半年間も続く朝ドラのヒロインです、少なくとも視聴者が感情移入できたり共感できることが必須条件ではないでしょうか。
そしてヒロインには、迷いつつ矛盾を抱きながら苦闘し困難を突破していく、という心理的葛藤=ストラッグルがどうしても必要でしょう。しかし、残念ながらここまでのところ暢子の内面にそうしたストラッグルを感じることができなくて、もどかしい。
振り返れば、川口さんの名はNHK大河ドラマ『麒麟がくる』(2021年)の帰蝶役で、一層広く知られることになりました。沢尻エリカさんの代役としていきなり織田信長の正室・帰蝶に抜擢された。しかも、大河ドラマは初めてで注目されましたが、受けて立った川口さんは実にすっくとして見事でした。着物姿が堂々と似合っていて、ふるまいは板についていて、「川口さんが演じて良かった」と雨降って地固まる結果に。