「稀代の牝馬が輝きを見せた」──そんな見出しと共に、ゴール板の前を駆け抜ける純白の馬がカラー写真で大きく取り上げられた。これは日本のスポーツ紙の話ではない。全米発行部数で第3位の一般紙「ニューヨークタイムズ」が5月16日に、東京競馬場で行われたGIヴィクトリアマイルの勝ち馬ソダシを特集したのだ。米の一般紙が日本の、しかも1頭の馬を取り上げることは極めて異例だという。スポーツ紙記者が語る。
「翌日の日本の一般紙はせいぜい競馬面で取り上げられたくらいでした。海外で日本馬が取り上げられるのは凱旋門賞などの世界的レースで触れられる程度で、日本のレースの勝利馬について、一般紙でこれだけの特集が組まれたというのは聞いたことがありません」
米一般紙でこれだけ大きく取り上げられた理由は「ピュアホワイト」と書かれたその毛色にある。白い馬は遺伝子の突然変異によって生まれ、その確率はニューヨークタイムズ紙でも「10万分の1」と書かれているほど稀な現象だ。しかし、見た目の美しさとは対照的に、個体としては日光に弱いことなどのマイナス要因も多く、競走能力がどうしても低くなってしまう傾向にあった。
白毛馬の偉業を讃えたニューヨークタイムズだが、ソダシの母や祖母には触れつつも、その勝利を支えたオーナーの詳細は書かれていない。白い馬が偶然勝った訳ではなく、勝てる馬を20年に渡って育てた、オーナーである金子真人氏の執念が結果を生んだのだ。
「金子氏は三冠馬ディープインパクトを始め、所有した馬が史上最多の4度もダービーを制しているという輝かしい経歴を持ったオーナーです。牝馬三冠のアパパネなど数多くのGI馬を所有し、その仔たちも活躍しています」(前出・スポーツ紙記者)
そんな金子氏が馬主として心血を注いだひとつが「強い白毛馬」だ。ソダシの祖母で白毛馬のシラユキヒメが中央競馬でデビューしたのは2001年2月。金子氏が所有していたこの馬は父親も母親も白毛ではなく、突然変異の白毛馬だった。シラユキヒメの父親は米・ケンタッキーダービーを勝つなどGIを6勝し、種牡馬として日本に輸入された1990年代に日本競馬を席巻したサンデーサイレンスであった。ディープインパクトの父親でもある。シラユキヒメは未勝利に終わったが、その「血」に活路を見いだした金子氏は、自身の所有する強い種牡馬とシラユキヒメを次々と掛け合わせ「白くて強い馬」への執念を見せた。偶然の産物である白毛を、母親として子供に受け継がせることで必然へ変えていったのだ。