新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの人々にストレスを与えた。街なかや電車の中がギスギスシた空気に包まれると感じる人も少なくないだろう。しかし、本当ならば、そんなことはなかった。街で、電車で、旅先で……思わぬ事態に見舞われたそのとき、手を差し伸べてくれたのは見知らぬ他人だったはず──。今だからこそ、見知らぬ人が優しかったことを思い出したい。人気漫才師に話を聞いた。
夫婦漫才で知られる「かつみ▼さゆり」(▼はハート印、以下同)の▼さゆり(52才)の心にはずっと、感謝を伝えたいヒーローがいるという。
「あれは私が18才の頃のこと。仕事場に向かうため、地下鉄に乗ったんです」
急いでいたため、たまたま目の前に来た先頭車両に乗った。ところがその瞬間、後ろから大勢の男性が勢いよく乗ってきて、隅に押しやられたという。集団痴漢だった。
「強い力で押さえ込まれ、気がついたらスカートとパンストを破かれていて……」
恐怖で震える中、「やめてください」と声を絞り出したものの、周りは知らんぷり。
「そうしましたら、バックパッカーっていわはるんですかね。大きなリュックを背負った30代くらいの外国のかたが異変を察し、人をかき分けて私のそばまで来てくれて、片言の日本語で“ヤメナサイ”って言ってくれたんです」
その外国人は痴漢を押しのけ、壁ドン状態で▼さゆりを守ってくれた。そして、駅に到着後、駅員室まで彼女に付き添い、去って行った。
「私にとってはほんまにヒーローに見えました。どこの国の人かもわからないですが、30年以上たったいまでも感謝を忘れたことはありません」
そんな彼女もつい先日、
「40年以上前ですが、私の弟が迷子になったとき、あなたに助けてもらったんです!」
と、ある女性から直接伝えられ、驚きとともに心が温かくなったという。感謝の気持ちを持ち続ければ、伝えられる日が来るかもしれない。
【プロフィール】
▼さゆり/1969年生まれ。兵庫県出身。2000年に夫のかつみとコンビを結成。夫の事業が失敗したことで多額の借金を抱えるが、その経験も笑いに変え、多方面で活躍中。主な著書に『▼さゆり52歳 生き様ビューティー』(ワニブックス)。
※女性セブン2022年6月9日号