NHKや民放各社でつくるBPO(放送倫理・番組向上機構)が今年4月15日、〈「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関する見解〉を公表したことが波紋を広げている。「見解」では、〈テレビで演出される「他人に心身の痛みを与える行為」を、青少年が模倣して、いじめに発展する危険性も考えられる。また、スタジオでゲストが笑いながら視聴する様子が、いじめ場面の傍観を許容するモデルになることも懸念される〉と指摘。このことで、バラエティー業界は“罰ゲーム”の演出などに苦慮しているという。【全3回の第2回。第1回から読む】
テレビをつまらなくしているとも指摘されることがある“放送倫理の番人”BPOとは、どんな組織なのか。
BPOは全国のテレビ局・ラジオ局が加盟する日本民間放送連盟(民放連)とNHKが設立した「放送番組向上協議会」と「放送と人権等権利に関する委員会」が統合して2003年に発足した独立機関だ。放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会の3つの委員会があり、視聴者の声などをもとに放送への苦情や放送倫理上の問題に対して第三者の立場で調査検証する。
理事長は心理学者の大日向雅美・恵泉女学園大学学長、非常勤理事にはNHK理事やTBS社長などが名を連ね、評議員の7人は漫画家の里中満智子氏、脚本家の内館牧子氏をはじめ学者や弁護士などだ。具体的に番組審査にあたる3つの委員会の委員(各約10人)は評議員会が指名し、作家や演出家、学者、弁護士で構成されている。
任意団体で法的権限があるわけではないが、テレビ局への影響力は非常に強い。
『発掘!あるある大事典II』(フジテレビ系)の番組中のねつ造が問題化した2007年6月20日の衆院決算行政監視委員会で、当時の民放連会長はこう証言している。
「BPOの判断というのは最高裁の判断みたいなもので、ここが判断を出したら、いろいろ言いたいことはあっても、すべて守っていく、忠実に守っていく、そういう約束の合意書にNHK及び民放各社がサインをしてBPOに提出しております。皆さんとともに、BPOを立派な組織に育て、放送事業者の自浄機能を確実なものにしていきたい」
番組の内容をBPOが「放送倫理に反する」と判断すれば、テレビ局は黙って従うしかないのだ。元テレビ朝日局員でテレビプロデューサーの鎮目博道氏が語る。
「番組内で間違いがあったり抗議を受けたりした場合、まず現場の責任者でもあるプロデューサーがお詫びを出すなど対応を判断する。第2段階は局のコンプライアンス担当部署が聞き取りして対外的な対応を検討する。BPOの審議は第3段階で、報告書を提出して調査に対応することになるが、現実はその段階で番組はアウトです。審議入りが決まればスポンサーは降りるし、テレビ局の上層部は結論を待たずに番組打ち切りにすることが多い。その後は似たような番組は企画としてあげても、ほとんど通らなくなってしまいます」