世界の中でも特に治安が良いとされている日本。落とし物をしても、交番などに届けられている確率が高いと言われている。実際に何度も財布を置き忘れては、その都度戻ってきたという、稀有な経験を繰り返している人もいる。女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子が、「世の中、捨てたもんじゃない!」と感じた体験を明かす。
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この春、区からありがたい「敬老入浴券」が送られてきた65才の私。寄る年波には抗えないね。忘れ物が激しくて‥‥なんて穏やかな話じゃない。私の場合、物心ついたときからだもの。財布は何個なくしたか。さらに家の鍵、自転車の鍵……。
理由はわかっている。何かに気を取られると、手に持っていたものが頭から消えちゃうんだよ。
そんな私が今日まで生きてこられたのは、通りすがりの人々が親切だったから。道を歩いていると後ろから「落ちましたよ」と声がかかる。振り向くと私の財布や傘を持った人がニコニコと立っている、なんてことは日常茶飯事。
この間は、東京・上野にあるデパートのベンチでメールを打ってから焼肉店に入り、さてお勘定、というときになって、財布がないことに気づいたの。あっ! そういえば、さっきベンチで財布を取り出したっけ。「ちょっと見てきます!」と店を飛び出したけど、ナイッ! ああ、財布の中には現金8万円が入っていたんだっけ。クレジットカードもキャッシュカードも全部入っている。どうしよう。
焼肉店の人に事情を話したら、警備室に電話をかけてくれたの。「警備員が保管しております」と目くばせしてくれた女性スタッフが冗談抜きで天使に見えたっけ。
だけど私の天使は、その警備員や女性スタッフだけじゃないんだよね。その直後、今度はバスの中に財布を置き忘れたし、ショッピングモールでも同じ騒ぎを起こしているの。そして全部、戻ってきている。
つまり、名も知らぬ人の善意によって、今日ここにあるわけ。しかも、通りすがりの親切は無償の愛。これがないと困るだろうという、咄嗟の行動よね。「ありがとう」なんて言葉じゃ追いつかないよ。
こんなことがあるたびに、世の中、捨てたもんじゃない、日本はまだまだ大丈夫だと、ジンとくるんだわ。
※女性セブン2022年6月9日号