視聴者を楽しませるための“攻めた演出”とコンプライアンスの狭間で、テレビ界が揺れている。そんな過渡期に存在感を増しているのが“放送倫理の番人”BPO(放送倫理・番組向上機構)だ。BPOの存在は、時に「テレビをつまらなくしている」とも指摘されることがあるが、実際はどうなのか。【全3回の第3回。第1回から読む】
BPOが今年4月15日、〈「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関する見解〉を公表し、テレビ業界には大きな衝撃が走った。「見解」では、〈テレビで演出される「他人に心身の痛みを与える行為」を、青少年が模倣して、いじめに発展する危険性も考えられる。また、スタジオでゲストが笑いながら視聴する様子が、いじめ場面の傍観を許容するモデルになることも懸念される〉と指摘。バラエティーの“罰ゲーム”の演出ができにくくなっているという。
BPOは任意団体で法的権限があるわけではないが、テレビ局への影響力は非常に強い。番組の内容をBPOが「放送倫理に反する」と判断すれば、テレビ局は黙って従うしかないのが現実だ。
そこまで番組内容に力を持つBPOの存在に政治家が目をつけないはずがない。
今年3月、自民党情報通信戦略調査会はNHKや民放連から各局の番組審議会についてヒアリングした後、調査会長の佐藤勉・元総務相は「BPO委員の人選に国会が関われないか提起したい」と発言した。政治家がBPOを通じて番組をチェックしようという狙いだ。
だが、そもそもBPOが設立されたのは放送業界が自主的に番組を検証する第三者機関を持つことで、放送への政治介入を防ぐという目的もある。元上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏が語る。
「放送分野は常に権力側から介入される危険がある。だから放送の自由を守るためにBPOが必要な組織なのは間違いない。とはいえ、BPOがやらせ演出や間違った報道に是正を求めるのは当然にしても、バラエティー番組の表現内容まで評価するとなると難しい面があるのは事実です。
現在の青少年委員会には、たとえば番組制作者や映画監督など作り手側の実情も考慮したうえで意見が言える委員がいません。やや視聴者の声に偏っているように思えます」