「先月までNHKの記者が詰めていたブースはもぬけの殻。5月30日の午前10時までに荷物を運び出し、鍵も返して出ていくように命じられ、追われるように撤収したそうです」(NHK関係者)
5月下旬、マスコミ関係者の間で耳を疑うような情報が駆けめぐった。新聞社や通信社、テレビ局などの加盟社で構成されるある県警の記者クラブがNHKを「除名」とし、クラブへの一切の出入りを禁じる処分を下したというのだ。
「今後は、クラブの求めに応じて県警が行う事件のレク(レクチャー)や、会見などへの出席も認められないといいます。事実上、記者クラブからの“追放”で、公共放送のNHKにとっては死活問題。前代未聞の異常事態です」(前出・NHK関係者)
なぜ、NHKは記者クラブをそこまで怒らせてしまったのか。発端は、知床観光船の沈没事故に関するNHKの報道だった。
「5月5日にNHKの地方局に所属する記者が“独自”と打って放送したニュースに対し、事故の遺族からクラブ側に抗議が寄せられたのです。翌日、ウェブでも配信された記事の内容は、事故が起きる前から無線連絡が適切に行われていなかった疑いがあるという、資料に基づく重要な問題を取り上げたものでした」(NHK記者)
ところが、その資料は本来、遺族側が記者クラブで共有するよう伝えた上で、NHKの記者に託したものだった。
「沈没事故をめぐっては遺族に取材が殺到するなどのメディアスクラムを避けるために、一社が代表で話を聞くといった、節度ある取材を行うよう申し合わせていた経緯がありました。県警の記者クラブではNHKが幹事社となっていましたが、詳しい事情を把握していなかった記者が個別取材を行ったことで、結果的に記者クラブと遺族の信頼関係が損なわれてしまったというのです」(社会部記者)
朝日新聞を筆頭に記者クラブの加盟社はNHKの単独行動に激怒。「クラブの品位が傷つけられた」と非難の声が上がった。
事態を悪化させたのは、その後のNHKの不誠実な対応だった。実は一連の問題は、5月12日に行われた前田晃伸NHK会長の会見でも議題に上がっていた。
「遺族から各社あてに提供された資料をNHKが独占的に放送した問題を指摘された担当者は『取材・制作の詳しい過程についてはお答えを控える』とし、前田会長も『ご遺族の意向に反するようなことをしてはいけないと思っています』と述べるにとどまりました。
記者クラブに対しても充分な説明を果たさず、あくまでも独自取材という主張を貫き、放送後に記者クラブに配布した問題の資料は『取材源の秘匿』を理由に入手経緯を明かそうともしなかったのです」(前出・社会部記者)