甲子園に詰めかけた阪神ファンのため息が何度となく聞かれた。
阪神が5月31日の西武戦で今季13度目の完封負けを喫して2連敗。自力優勝の可能性が消滅した。6月1日の試合でかろうじて自力Vの可能性が復帰したが、54試合目での消滅は今世紀に入って球団最速。本拠地・甲子園で25イニング連続無得点(以下、数値は6月1日終了時点)と不名誉な記録が並ぶ。このペースだと年間34度の完封負けになり、球団最多の24度をはるかに超えることになる。スポーツ紙デスクが指摘する。
「阪神はもっと出塁率を重視したほうがいい。例えば上位を打つ中野拓夢は2割7分9厘ですが、出塁率は四球が5つのみで2割9分6厘。糸原健斗も出塁率.2割7分8厘と3割に満たないようでは厳しい。積極的にファーストストライクから打ちにいくスタイルは決して悪くはないですが、ボール球に手を出したり、四球の可能性が高いのに制球難の投手を3ボールから強引に打ちにいって助けてしまっているケースが打線全体で目立つ。
これは個々の選手だけではなく、首脳陣の責任も大きいと思います。もっと相手が嫌がるような野球をしなければ得点は増えません。機動力が使える選手が多いので四球で塁に出て、ノーヒットでも得点を取るような野球を目指さないと。選手に好き勝手に打たせても得点は入りません」
実際、投手陣はリーグトップクラスだ。青柳晃洋、西勇輝、ウィルカーソン、ガンケル、伊藤将司、西純矢と先発ローテーションは頭数がそろい、安定した投球を続けている。救援陣は当初守護神に予定していた新外国人投手・ケラーが2試合登板で防御率33点台と大誤算だったが、岩崎優がセットアッパーから配置転換されて落ち着きを取り戻した。若手成長株の湯浅京己は力のある直球を武器に21試合登板で防御率は1点を切っている。抜群の安定感で「勝利の方程式」に不可欠な存在に成長した。昨年限りでソフトバンクの戦力構想から外れ、育成枠で入団して開幕直前に支配下登録された「苦労人左腕」の渡邉雄大も18試合登板で防御率2点台と期待以上の活躍を見せている。
広い甲子園を本拠地にして投手有利であることも加味すれば、ディフェンス中心の戦いで、堅い守備と得点をコツコツ積み重ねる戦い方がチームに合っているが、矢野燿大監督の戦い方は逆行しているように見える。佐藤輝明は右翼、三塁、大山悠輔は一塁、三塁、左翼と守備位置が固まらない。複数ポジションを守れたほうが戦術的に良いのかもしれないが、佐藤、大山が打線の軸であることを考えると1つの守備位置に固定して打撃に専念したほうが良いのではないだろうか。二塁の守備範囲が狭い糸原を打撃不振でもスタメンで起用し続ける采配にも疑問が残る。打線も個々の能力に任せた淡白な野球で、塁に出るための創意工夫が見られない。