ライフ

本屋大賞作家・町田そのこ氏が新作を語る「泥沼から立ち上がる瞬間や気付きを伝えたい」

町田そのこ氏が新作について語る

町田そのこ氏が新作について語る

【著者インタビュー】町田そのこ氏/『宙ごはん』/小学館/1760円

 昨年の本屋大賞受賞作『52ヘルツのクジラたち』のモチーフとなった、仲間にも届かない周波数で鳴く鯨のように、弱くとも誇り高き者達の声なき声に耳を傾け、小説の形で問うてきた、町田そのこ氏(42)。

 その町田氏が、「当社比で一番優しい物語!」と笑う新作『宙ごはん』は、第1話「ふわふわパンケーキのイチゴジャム添え」や第2話「かつおとこんぶが香るほこほこにゅうめん」等、優しげな料理名が並ぶ目次に不意を突かれること必至。しかし、〈『お母さん』と『ママ』はまったく別のものだと、宙は思っていた〉と始まる母と娘の物語が、そう甘いはずはないのである。

 物語は冒頭では保育園児だった〈川瀬宙〉と母親でイラストレーターの〈川瀬花野〉、さらに宙を6歳まで育てた叔母〈日坂風海〉を軸に展開し、花野をお母さん、風海をママと呼ぶ宙の5~17歳までの成長を追う。

 いや宙に限らない。花野や風海や、近所で洋食店を営む花野の後輩〈佐伯恭弘〉まで、本作では大人も子供もなく成長し、そんな一見歪な家族を繋ぎ、命を繋ぐのも、日々のごはんだった。

「これは食の小説をという、初めてお題ありきで書いた作品で、料理もあまり得意じゃない私に、なぜ? と、正直、意外ではありました。むろん食べるのは大好きで、お酒も大好きなんですけど、食べると作るが違うように、食べると書けるも全然違う。でも依頼が来た以上、そこは素直に喜んで、食とは何かを一から考えてみたんですね。

 すると食べることは前に進むことで、人は何があっても命を明日に繋ぐために食べなきゃいけない。その食事を最も一緒に摂るだろう母娘が食を通じて成長する、家族小説を書こうと」

 芸術家肌な姉を見かね、風海夫婦が宙を引き取って早6年。地元有数の旧家・川瀬家を訪れ、宙の卒園を皆で祝った矢先、来月シンガポールに転勤するパパは突然言った。〈あるべき姿に、戻ったほうがいい〉と。

 自分も一緒に行くつもりだった宙は、姉に子育ては無理と反対する風海と、〈あたしは、どっちでもいい〉〈あんたの人生だから、自由に生きていいの〉という花野の間で揺れ、結局は華やかな母と暮らすことを選んだのだ。

 が、いざ仕事に集中すると髪はボサボサ。授業参観の案内すら読まず、毎日の食事も自分を慕う佐伯に作らせる花野を、宙はお母さんではなくカノさんと呼び、ファストフードは時々食べるからよく、〈毎日食べると体によくないのだ〉と道理をまた一つ知ったりした。

関連記事

トピックス

“令和の小泉劇場”が始まった
小泉進次郎農相、父・純一郎氏の郵政民営化を彷彿とさせる手腕 農水族や農協という抵抗勢力と対立しながら国民にアピール、石破内閣のコメ無策を批判していた野党を蚊帳の外に
週刊ポスト
緻密な計画で爆弾を郵送、
《結婚から5日後の惨劇》元校長が“結婚祝い”に爆弾を郵送し新郎が死亡 仰天の動機は「校長の座を奪われたことへの恨み」 インドで起きた凶悪事件で判決
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
「最後のインタビュー」に応じた西内まりや(時事通信)
【独占インタビュー】西内まりや(31)が語った“電撃引退の理由”と“事務所退所の真相”「この仕事をしてきてよかったと、最後に思えました」
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬・宮城野親方
【元横綱・白鵬が退職後に目指す世界戦略】「ドラフト会議がない新弟子スカウト」で築いたパイプを活かす構想か 大の里、伯桜鵬、尊富士も出場経験ある「白鵬杯」の行方は
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン