じめじめする梅雨の季節は、部屋の中で読書をして静かに過ごすのもいいだろう。今読みたい新刊4冊を紹介する。
『くるまの娘』/宇佐見りん/河出書房新社/1650円
芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』に砂に隠した針のような記述があった。主人公の心の不調。本書ではそれを前面に出す。勤勉で暴力的な父、脳梗塞の後遺症に苦しむ母、家を出た兄や弟。高校生のかんこは思う。被害者づらはできない、自分もこの地獄を巻き起こす一員だと。生きるために逃げろというポストモダン的思考に一石を投じる家族小説。家族のままならなさを深く掘る。
『マイホーム山谷』/末並俊司/小学館/1650円
マザー・テレサを手本に2002年、山谷に創設された「きぼうのいえ」。著者の末並さんは両親を看取った2018年、創設者の山本雅基さんに会いに行く。死の意味を考えたくて。が、山本さんは貧困と病で支えられる側になっていた。彼に何が。本書は山本氏に共鳴して高い勉強代を払ったオーラの泉の江原啓之氏や失踪した元妻も捜し出して話を聞く。共助や互助について考えさせられる。
『ミウラさんの友達』/益田ミリ/マガジンハウス/1430円
古い女友達と気まずくなったミウラさん。「トモダチ」という人型ロボットを思い切って購入する。彼女が発するのは「うん」や「そうなの?」など4つだけ。でも4つ目の言葉が分からない。一方ミウラさんは感じのいい同僚男性カジさんと言葉を交わすようになる。ロボット設計者の思いとミウラさんの恋が静かに絡み、人と人の間に生まれる小さな奇跡に心の温度がじんわり上がる。
『ほんとうのリーダーのみつけかた 増補版』/梨木香歩/岩波現代文庫/880円
名著『君たちはどう生きるか』と対にしたくなる現代版。何を指針に生きるか、平明な言葉で書く。例えばリーダー論。それは外部にはなく、自分で自分をジャッジする心の眼のことだとする。増補の「『村八分の記』(1953年刊)を読む」には衝撃を受ける。村の選挙不正を告発した少女や家族が受けた仕打ち(中島みゆきの歌『ファイト!』のよう)。著者はXの出現に希望を繋ぐ。
※女性セブン2022年6月16日号