コロナ禍やウクライナ侵攻、それに伴う原油高、サプライチェーンの乱れなど、経済や社会の混乱が続いている。ビジネスをめぐる環境は、1~2年でガラリと変わるのが当たり前となった。例えば全日空や日本航空をはじめとする世界の航空会社は、コロナで海外渡航がストップした中で軒並み巨額赤字に転落。さらに、昨年から続く世界的な半導体不足は多くの業界に影響をもたらし、国内メーカーでいえば任天堂が主力ゲーム機「Nintendo Switch」の部品の調達に苦慮。代替部品の模索や設計の見直しに着手するなど“激変”の波に晒されている。
一方、国内最大手の半導体メーカー・キオクシアは、官民の積極的なクラウド向け・IT向け投資のブームに乗り、メモリなどを増産。245億円の赤字だった前年(2021年3月期)の決算から、2022年3月期には1059億円の黒字へと転換させた。
こうした環境は、まさにVUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)と呼ばれる時代と言える。
そうした時代には、「自分で考えて動くことが重要になる」と語るのは、楽天グループ株式会社楽天大学学長の仲山進也氏だ。仲山氏は創業期の楽天に入社し、出店者を支援する「楽天大学」を設立。中小企業やベンチャー企業の成長をサポートしながら、自律的な組織文化やチームづくりを研究している。
「現在のビジネス環境は、【1】めまぐるしく状況が変わっていき、さまざまな要素がからみ合っていて、過去に成功したやり方をしても同じ結果が得られない。【2】施策と結果の因果もわかりにくく、計画がうまく進んでいるかどうかも明確でない。【3】リーダーが指示をしようとしても、変化スピードの速さと変化点の多さにより、すべてを指示しきれない。【4】 だからこそ、指示待ちではなく、自ら考えて動ける『自律型』の人材と組織が不可欠になる──といった特徴があります。
これに対応するのは簡単ではありませんが、私は“サッカー的な思考法”をすることが、激変の時代を生き抜くヒントになると考えています。上記の4つの特徴をもう一度読んでみてください。サッカーと似ていると言えると思います。昨今のビジネス環境は、サッカーに近づいているのです」
仲山氏自身、「ヴィッセル神戸」の公式ネットショップを立ち上げグッズ販売を倍増させたほか、「横浜F・マリノス」のコーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施した経験を持つ。その仲山氏が“サッカー的な思考法”でビジネスを考えることが重要になる、というのは説得力がある。
「育成に定評があるオランダの名門クラブ・アヤックスがかつて提唱していた『TIPS』という考え方があります。選手の選抜・育成の際に重視する、以下の4つのポイントのことです。
【T】テクニック(高難度の技ができる意ではなく、基本動作を精度高くできる技術力)
【I】インテリジェンス(流れの中で精度の高い判断ができる思考力)
【P】パーソナリティ(従順な人・いい人の意ではなく、チームワークができる性格)
【S】スピード(最高速度よりも動き出しの速さや機敏さ、さらには判断の速さ)
4つを見てみると、やはりサッカーの考え方はビジネスにもあてはまると言えるのではないでしょうか」