政府の「新しい資本主義の実行計画」によれば、2025年度には全国平均の最低賃金1000円以上を目指す方針だ。政権発足時に岸田首相が掲げた「令和版所得倍増計画」は、約半世紀前の所得倍増計画とは異なり、個人の資産所得、つまり株式や投資信託などから得られる所得を倍増させるものだったため、多くの国民にとって所得は倍増しないと受け取られていたことに対するフォローなのだろうか。最低賃金の上昇によって、閉塞感に満ちた庶民の経済状況を改善できるのだろうか。俳人で著作家の日野百草氏が、学生からの素朴な疑問をきっかけに、日本の最低賃金とは何を示しているのかについて考えた。
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「最低時給なのに、どうして最低が標準みたいに下に合わせてるとこが多いんですかね、あくまで最低時給で、上限はないはずなのに」
筆者の元教え子の学生、コロナ禍にも恵まれたアルバイト先で仕事を続け、来年はいよいよ社会人である。いつも素直で素朴な問いかけをしてくる彼、この疑問も一笑に付すには侮り難く、なかなか深い。
「多くは最低時給と書いて、まず最低時給かそのちょっと上からスタートですよね。経験者でもまずそこから、ってところもあります。以前、同じようにバイトしてる留学生とも不思議な国だねと話したんです」
未経験なら最低時給かそれに準じる額というのも仕方のない話、しかし経験者でもそこから「とりあえず」スタートというのは多くの方が経験している通りに多い。全国の最低時給、最高額は東京で1041円、最低額は高知と沖縄で820円だが、実際は820円台を最低ランクとするなら青森(822円)、岩手(821円)、秋田(822円)、山形(822円)、鳥取(821円)、島根(824円)、徳島(824円)、愛媛(821円)、佐賀(821円)、長崎(821円)、熊本(821円)、大分(822円)、宮崎(821円)、鹿児島(821円)と並ぶ(すべて2021年10月時点、産業別最低賃金は除く)。別にこの金額を下回らなければいいとはいえ、こうした東北、中国四国や九州の一部ではほぼこの最低時給かそれに近い額で募集がかけられている。仕事がないと言われる地方とはいえ、募集しているということは人が欲しいはずなのに、まるで賃金が上がらない。
「経験のあるなしもそうですけど、切羽詰まるくらい人手が足りないところも最低時給に近い額で募集してますよね。その時給で人が来てくれないなら時給を上げて募集するのは当たり前の気がするのですが、なぜ最低時給で募集し続けるのでしょう、いますぐ人が欲しいはずですよね」