本格的な梅雨のシーズンがやってきた。こんな時期は部屋にこもって読書でもいかがだろうか。おすすめの新刊4冊を紹介する。
『孤蝶の城』/桜木紫乃/新潮社/2090円
カルーセル麻紀さんがモデルの『緋の河』の続編。カーニバル真子こと秀男はモロッコで女の体になり、作家との恋、歌や芝居や映画と、マスコミに話題を提供し続ける。他人の価値観で生きるのはまっぴらだったのに、他者の好奇の目なしには芸能界で生き残れないという矛盾。藤圭子とおぼしき歌手も登場。本物の女ではなく、「自分の本物」を目指した孤高の闘いが圧倒的。
『私を美術館に連れてって いつでも鑑賞できるミュージアム』/壇蜜、山下裕二/小学館/1980円
常設展って穴場だったんだと開眼する。中でもこぢんまり感で魅力的なのが旧住居を開放した施設。彫刻作品が隠れた岡本太郎記念館の亜熱帯の庭、柳宗悦がお気に入りの机などでしつらえた日本民藝館母屋の書斎、全方位から眺める彫刻家の眼が活きた朝倉彫塑館の中庭。運慶作と推定される「大日如来坐像」が無料で見られるのは半蔵門ミュージアム。ふらっと立ち寄ってみて。
『バブル』/武田綾乃/集英社文庫/748円
舞台は重力の壊れた東京。5年前に世界的規模で「降泡現象」が起こり、東京はドーム状の泡に包まれる。聴覚過敏の傾向を持つヒビキは、バトルクールチームで食糧確保に寄与するエースだが、ある日海に落下し、不思議な少女ウタに救われる。なぜ2人は出会ったのか、そしてその出会いの意味とは。“世界を救う”という男子好みのテーマに、女子のロマン人魚伝説がからむ。
『「できる」と「できない」の間の人──脳は時間をさかのぼる』 /樋口直美/晶文社/1650円
著者は50才でレビー小体型認知症と診断された当事者。コロナ禍での日々を綴る。風呂上がりの転倒、「ななな!」(バナナ)と泣く孫から教わる対等のコミュニケーション、本来の魂が表に出たような死者の美しい顔、うつ気分を払う土いじり。読んでいてIT機器を前にした時の意味の崩壊や動転、日常のズボラ化などは、あ?同じだと思う。著者は明日の、いえ、今日の「私」だ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年6月23日号