台湾空軍のパイロットが、台湾南部での飛行訓練中に死亡した。今年に入って、台湾空軍機の飛行中の事故は3回目だ。
半年間で3回も死亡事故が続く異常事態について、台湾では、中国の軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に頻繁に飛来し、その都度、台湾空軍機がスクランブル(緊急発進)をかけているため、パイロットが疲弊していることや、新人のパイロットの養成が間に合っていないことが原因となっているとの見方が強い。台湾の中央通訊社が報じた。
23歳の徐大均少尉は5月31日、台湾南部高雄市上空で、AT-3軍用ジェット戦闘練習機に搭乗し、2度目の単独飛行を行っていた際、離陸後数分でレーダーから消えた。高雄市消防局の職員が、市街地近くの墜落現場で徐氏の遺体を発見した。
台湾空軍によると、徐少尉は飛行訓練を受けていた5人のパイロットのグループの1人で、他の4人は無事に帰還した。
1月中旬には、台湾の最新鋭戦闘機F-16Vが西海岸沖に墜落し、パイロットが死亡した。台湾空軍はF-16の戦闘訓練を1週間以上中断したが、1月下旬に戦闘を再開させた。
また、3月にはミラージュ2000-5戦闘機が定期訓練中に台湾南東部沖に墜落し、フランス製戦闘機全機が地上待機となった。パイロットは無事脱出し、その後、ミラージュは運用を再開している。
いずれも戦闘機の安全性に問題はなかったということでの運用再開だった。
そうなった背景には、台湾ならではの事情がある。特に今年に入って、中国軍機が頻繁に台湾の防空識別圏に侵入しており、徐少尉が墜落事故を起こした前日の5月30日には中国軍の戦闘機など延べ30機が飛来しており、1日に進入した中国軍機の数としては今年2番目の多さとなった。今年1月から5か月間で、中国軍機の進入数の累計は昨年同期比で1.5倍に増えているという。
台湾国防省は昨年11月に公表した国防報告書で「中国は武力攻撃に至らないいわゆるグレーゾーン事態によって台湾の戦力を消耗させるとともに、民心を動揺させ『戦わずして台湾を奪う』という目標を達成しようと企てており、防空識別圏への軍用機の進入もその手段の1つだ」と指摘している。