「40代以上の男性にとって、心臓突然死はかなり身近なリスクです。元気だから大丈夫と思っている人も、じつは『隠れ心臓病』かもしれません。日本では年間7.9万人、7分に1人が突然死で亡くなっています。もっとも多いのが心筋梗塞や狭心症などの心疾患です。私も2年半前、山手線の中で心臓が止まって、三途の川をわたりかけました」
警鐘を鳴らしつつ、衝撃の体験をサラリと話すのは、医療ライターの熊本美加さん。意識不明で人工心臓に一週間つながれていたときは、医師も「命が助かるかどうかわからない。助かったとしても障害が残る可能性が高い」と言っていたとか。
しかし、熊本さんは奇跡的に元気を取り戻し、奇跡的に仕事にも復帰しました。宝塚の沼にはまりながら、3匹の猫と楽しく日常生活を送っています。
「自分の体験を伝えることで、心臓突然死を少しでも減らしたい。それが生き延びた自分の使命」という思いで、新聞やweb媒体に記事を発表。6月22日には、コミック付き書籍『山手線で心肺停止! 医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(漫画・上野りゅうじん)が講談社から発売されます。「女性の体験談ですが、むしろ男性に読んでもらいたい」とのこと。
心臓突然死は新型コロナよりもはるかに多くの命を奪っている
「年間7.9万人」というのは、ビックリの多さです。新型コロナウイルスに感染して亡くなった方は、2年数カ月の累積で3万955人(厚生労働省、6月15日現在)。比べるものではありませんが、新型コロナ以上に警戒が必要と言っていいでしょう。
とくにリスクが高いのが、40代以上の中高年男性。熊本さんが回復後に循環器内科の主治医に取材したところ、「食事や生活のリズムが適当になりがちな独り暮らしの男性は、本当に気をつけたほうがいい」と口を酸っぱくして言っていたとか。
「主治医によると、健康診断を受けても、心臓のピンチはなかなか発見されない。だけど、メタボだったり血糖値や血圧が高かったり、あるいは日々のストレスが多かったりする人は、『隠れ心臓病』が潜んでいるリスクは高まります。あともうひとつ、男性特有のサインで見逃せないのが『朝勃ち』がなくなること。男性ホルモンのテストステロンの減少は、血管の健康にマイナスの影響があることがわかっています」
熊本さん自身、医療ライターという仕事柄、健康にはそれなりに気をつけているつもりでした。倒れる少し前から胸に痛みを感じることがありましたが、「仕事が忙しいからかな」「更年期の症状かな」と自分を納得させて、病院に行かずにスルー。
「今思えば、そのときの自分をビシッとムチ打ちたいですね。『念のために受診する』というちょっとの手間を惜しんだばっかりに、たいへんなことになりました。もしそのまま三途の川をわたっていたら、自分は死んだことすらわからない無の世界に落ちたわけだけれど、家族や友達にはどれだけつらい思いをさせたことか」