がんは日本人の死因の第1位で「国民病」とも呼ばれる。将来のリスクについて気になる人は多いはずだ。よく“がん家系”という言葉を耳にするが、がんの発生と遺伝の相関関係は世界中で長年の研究課題とされてきた。そうしたなか、国立がん研究センターと理化学研究所が発表した大規模研究の結果が注目を集めている。
「病院で『中咽頭がんのステージIVです』と言われた時は頭が真っ白になりました。余命はどれくらいかと訊ねたら、医師は『聞かないほうがいい』と言うんです」
そう話すのは、俳優の村野武範(77)。2015年に精密検査を受け、がんが判明したという。
「どうせダメなら納得いくまで試してみようと、遠方の病院に入院してピンポイントの陽子線治療を受けました。幸い副作用も少なく約2か月半で無事に退院でき、今も経過は良好です」(同前)
村野は、母が60代で胃がんを患っていた。
「がんと診断されて母のことが頭をよぎりましたが、驚いたのは退院後。3人いる姉の2人が過去に皮膚がんと乳がんをそれぞれ患っていたと初めて知ったんです。母と姉2人と自分は部位も違うし何とも言えないが、“がん家系”というやつかなと思いましたよ」(同前)
「がん」の主たる原因が「生活習慣」なのか「遺伝」なのかは長年、世界中で議論の的になってきた。東京大学大学院特任教授の中川恵一医師(総合放射線腫瘍学)が語る。
「がんは遺伝子が傷つき細胞が不死化して無限増殖する『遺伝子の病気』です。ただし、がん発症の最大の要因は『がんに関連する遺伝子の偶発的な損傷』と言え、その次が『生活習慣・環境的要因』です。『遺伝』が発症原因となるがんは全体の約5%と例外的です。
ただその5%の『家族性腫瘍』には、発症原因となる『遺伝子の変異』が親から子へ50%の確率で受け継がれるものが含まれる。過剰に心配する必要はないが、遺伝が原因となるがんが『存在する』のはたしかです」
中川医師が「親から子へ50%の確率で受け継がれる」と解説したのは、BRCA1/2という遺伝子に起きる変異を指す。その遺伝子変異によって起きる代表的ながんは、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」だ。