湿気の多い季節が到来。部屋にこもって読書でもして過ごしたいところ。この季節にぜひとも読みたいおすすめの新刊4冊を紹介する。
『やりなおし世界文学』/津村記久子/新潮社/1980円
国内外の名作を“すみません、読まないで小説家になりました”と告白するガイドブック。『華麗なるギャツビー』では「ギャツビーて誰?」、『ねじの回転』では「家具の組み立て?」といった疑問をぶつけ、カフカの『城』は出向小説だと看破。『アラバマ物語』に涙が止まらず(同感!)、『子規句集』には歯切れのいい友人を思い出す。「圧」のない案内で著者の人柄ごと愉快。
『子宝船 きたきた捕物帖(二)』/宮部みゆき/PHP研究所/1760円
ますます面白くなります、このシリーズ。宝船の絵にあやかって授かった赤子が亡くなる絵画怪異の表題作、弁当屋を営む気のいい夫婦と幼い娘が無惨に殺される「おでこの中身」と、真犯人を追い詰める「人魚の毒」の3話。「逆ねじ」「側杖を食う」「ざっかけない」など絶滅危惧種の言葉が物語にしっくり馴染み、脇役の広がりもこの上なく楽しい。願わくば年に1作の刊行を!
『老いが怖くなくなる本』/和田秀樹/小学館新書/935円
衝撃的な表現が。「人生100年時代」というのは、医学の恩恵なしで早死にするか、認知症になるかの二つに一つ。長生きすれば認知症になるのは当たり前で、付き合っていくのが肝心だ、と。7時間睡眠(長すぎるのもダメ)、適度な運動と日光浴、肉食(朝か昼に)、人との会話が最高の「脳トレ」、「糖質オフ」より「ちょい太」、お洒落や恋愛の効能など、役に立つ情報がいっぱい。
『生まれた時からアルデンテ』/平野紗季子/文春文庫/880円
題名は、小さいときから歯ごたえのあるパスタ(非うどん系)が普通でした、の意。食に対する好奇心には突き抜けたものがあり、お喋りに気を使って味と向き合えないなら「孤食最高」と言い切る。美味しい不味いを超えた世界一のレストラン体験記から勝負師のような鋭角的な顔したフルーツサンドとの遭遇まで、食エッセイの定義も変えそうな新感覚。彼女の食旅を応援したい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年6月30日号