2020年6月末に施行された香港国家安全維持法の影響は、小中高校の教育までに及んでいる。中国政府は、香港で使われている教科書が国家の安全を脅かす内容を含んでいないことを保証するよう要求。教師は、中国と「非友好的」な著者の本を扱わないよう自主規制することを余儀なくされ、すでに、天安門事件や中国共産党に否定的な数百冊の本が学校から撤去されたという。
香港紙「明報」が入手した中国当局の内部文書によると、中国教育省は香港特別行政区政府に対して「教科書や副読本は若い学生の心に多大な影響を与えるので、吟味して選ぶ必要がある。正しい歴史観に基づいた良書を選ばなければならない。例えば、習近平国家主席の重要講話集などだ」と指示しているという。
また、英BBCによると、香港の小中高校で使われる新しい教科書では「香港がイギリスの植民地だったことは1度もない。英国は植民地支配を実施しただけだ」と記述。これは、「香港をめぐって中国の主権が途切れたことはない」との中国の主張に基づいているものだ。
中国は「香港をイギリスに渡したのは、1800年代のアヘン戦争における不当な条約のためであり、中国は一貫して主権は放棄していない」としている。
ある香港の高校の図書司書は「不適切」と判断された教材を授業で使ったことで解雇された教師がいたため、図書館に「敏感」なテーマの本があると苦情で教職を失うのではないかと心配し、“悪書”を撤去する作業を行ったという。
撤去された本のなかには、天安門事件に関するものや、同事件で失脚した趙紫陽・元中国共産党総書記やリベラルな思想の持ち主とされた胡耀邦・元総書記らの著書が含まれている。また、欧米の自由主義や資本主義を礼賛した本も除外された。ある学校では、撤去された本は300冊以上に上ったという。