ライフ

iPS細胞で人工臓器を作り「薬剤性難聴」の治療薬を開発する研究進む

抗がん剤シスプラチンを起因とする難聴に治療薬の開発が進む

抗がん剤シスプラチンを起因とする難聴に対し、治療薬の開発が進む

 抗がん剤シスプラチンは肺がん、胃がん、悪性リンパ腫など多くのがん治療に用いられている。ただ、がん治療薬としては有用だが、約6割に薬剤性難聴という副作用が起きてしまう。一度でも難聴になってしまえば元には戻らない。そのため現在、iPS細胞から内耳オルガノイド(人工臓器)を培養し、シスプラチン起因性難聴に関する治療薬開発の研究が進められている。

 聞こえは音(空気の振動)が耳に取り込まれ、内耳の有毛細胞によって神経信号に変換されることで始まる。この信号を蝸牛神経節細胞が脳に伝え、音として認識される。

 シスプラチン起因性難聴とは薬剤の副作用の一つ。約6割に発生し、結果的にこれらの細胞が障害されると再生されず、感音難聴は治らない。

 難聴患者から内耳細胞を取り出せないので、原因究明や治療薬開発については主にマウスなど動物を使った研究が行なわれてきた。しかし、マウスに効果があっても人間には効かない治療薬が多い。

 そこで現在、東京慈恵会医科大学、北里大学医学部、慶応義塾大学医学部が共同で、ヒトiPS細胞を利用した薬剤性難聴の治療薬開発をスタートさせている。

 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室の栗原渉医師に聞いた。

「ヒトiPS細胞から蝸牛神経節細胞様細胞(機能を再現したものなので“様”細胞と呼ぶ)と有毛細胞様細胞を含む内耳オルガノイド(人工臓器)の培養に成功しました。この内耳オルガノイドには生体の蝸牛神経節細胞と同様に神経信号を伝達する機能が確認されています。これにシスプラチンを投与すれば実際の内耳で何が起こっているかを培養皿の中で再現できます」

 内耳オルガノイドにシスプラチンを投与すると活性酸素種が過剰に産生される。研究では、この活性酸素種により、培養皿の蝸牛神経節細胞様細胞がアポトーシス(細胞死)を起こすことが明らかになった。他にはCDK2阻害剤という薬剤を投与したところ、24時間後の活性酸素種の産生抑制が確認され、長期的な観察では蝸牛神経節細胞様細胞のアポトーシスまでは防げなかったが、シスプラチンの神経毒性作用を短期的に抑制できたことも確認。こうした作用のメカニズムに関しては今後も研究が続けられ、将来的な治療薬候補が見つかるだろうと考えられている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバム、
「『犯罪に関わっているかもしれない』と警察から電話が…」谷内寛幸容疑者(24)が起こしていた過去の“警察沙汰トラブル”【さいたま市・15歳女子高校生刺殺事件】
NEWSポストセブン
NHKの牛田茉友アナウンサー(HPより)
千葉選挙区に続き…NHKから女性記者・アナ流出で上層部困惑 『日曜討論』牛田茉友アナが国民民主から参院選出馬の情報、“首都決戦”の隠し玉に
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
フジテレビの取締役候補となった元フジ女性アナの坂野尚子(坂野尚子のXより)
《フジテレビ大株主の米ファンドが指名》取締役候補となった元フジ女性アナの“華麗なる経歴” 退社後MBA取得、国内外でネイルサロンを手がけるヤリ手経営者に
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(時事通信フォト)
《「心神喪失」の可能性》ファストフード中学生2人殺傷 容疑者は“野に放たれる”のか もし不起訴でも「医療観察精度の対象、入院したら18か月が標準」 弁護士が解説する“その後”
NEWSポストセブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと住所・職業不詳の谷内寛幸容疑(右・時事通信フォト)
〈15歳・女子高生刺殺〉24歳容疑者の生い立ち「実家で大きめのボヤ騒ぎが起きて…」「亡くなった母親を見舞う姿も見ていない」一家バラバラで「孤独な少年時代」 
NEWSポストセブン
6月にブラジルを訪問する予定の佳子さま(2025年3月、東京・千代田区。撮影/JMPA) 
佳子さま、6月のブラジル訪問で異例の「メイド募集」 現地領事館が短期採用の臨時職員を募集、“佳子さまのための増員”か 
女性セブン
〈トイレがわかりにくい〉という不満が噴出されていることがわかった(読者提供)
《大阪・関西万博》「おせーよ、誰もいねーのかよ!」「『ピーピー』音が鳴っていて…」“トイレわかりにくいトラブル”を実体験した来場者が告白【トラブル写真】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《広末涼子が釈放》「グシャグシャジープの持ち主」だった“自称マネージャー”の意向は? 「処罰は望んでいなんじゃないか」との指摘も 「骨折して重傷」の現在
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン