いよいよ気温も高くなり、涼しい部屋の中で静かな時間を過ごしたくなる季節。そんなときには読書なんていかがでしょうか。今読みたい、新刊4冊を紹介します。
『俺ではない炎上』浅倉秋成/双葉社/1815円
山縣泰介は住宅メーカーの部長。出先から戻ると社内の空気が凍えている。その頃SNSでは女子大生殺しの犯人が山縣泰介と特定され大炎上していた。アカウントを乗っ取られ、自宅の倉庫で第二の遺体を見つけた泰介は逃げるしかなく……。泰介の無実を信じた人物が、日本語の誤用にうるさい泰介が間違った日本語だらけのTwitterを書くはずがないと言うのに思わずホロッ。
『風の行方』佐藤愛子/文春文庫/上下巻 各935円
元校長の夫丈太郎に離婚を突きつけた64才の信子。丈太郎は岩手の山奥へ移住、その長男謙一は不倫のあげく美保と離婚して千加と同居、美保は編集の仕事を再開し、売れっ子作家との情事に堕ちるが、謙一と美保の息子吉見はイジメに苦しむ。元は新聞連載小説で、「現代人は変化を漂う浮草だ」という丈太郎の感慨が象徴的。“移りゆく日本人の姿”を叙事的に描出して今も新鮮。
『カレーの時間』寺地はるな/実業之日本社/1760円
「ぼく」こと桐矢は娘達との同居を嫌う祖父の名指しで渋々同居。祖父はカレールーの製造販売会社の元営業マンでカレーを偏愛、桐矢手製のアレンジカレーも喜ぶ。祖父はレトルトの販路拡大に奮闘していた頃、妻に出奔され、娘3人を育てた。男らしさとは。女を護るという旧世代のそれと、他者に敬意を払うという人間観に置換された新世代のそれ。質実で豊かな読後感に浸る。
『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』
中野信子 小学館新書 880円
ここでいうフェイクとは「嘘」のこと。振り込め詐欺に限らず、何度も繰り返される虚偽答弁や言った者勝ちの論点ズラしなど、なぜ我々にはこんなにも嘘に対する耐性がついてしまったのか。“脳は自分で考えるより命令されるのが好き”という事実に驚くやら納得するやら。善意の嘘、嘘の効用なども解説するが、それってたぶんストーリーのこと。はい、“物語”は必要ですね。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年7月7・14日号