参院選は後半の追い込みに入ったが、ここに来て物価上昇と反比例するように岸田内閣の支持率が大きく下がっている。主に高齢者の支持が減ったと分析されている。
それもそのはずである。さる6月15日、年金の4月分と5月分が一斉に支給された。今年度の年金支給額は前年度よりマイナス0.4%、夫婦2人の標準モデル世帯で月に1000円近く、年間では約1万1000円引き下げられる。年金生活者はそのことを6月の支給日に思い知らされた。
一方、生鮮食料品を含めた全国の消費者物価は4月に前年比2.5%上昇、5月も東京都区部の速報値で同2.4%アップした。食品などの値上げラッシュはこの先も続く。年金生活者にとっては物価高騰と年金カットのダブルパンチだ。
東京郊外の安売り青果店で季節物のさくらんぼを見ていた男性(77)に話を聞いた。1人暮らしだという。
「何もかも高くなって、年金生活者にはとても買えないよね。年金が減ったうえに、天引きされる後期高齢者の保険料は上がった。年金の手取りは毎年減っていく一方です」
原因は、安倍政権下の2016年に成立した、いわゆる「年金減額法」が昨年4月に施行されたことだ。
もともと年金にはインフレになっても生活が苦しくならないように、物価が上昇すれば同じ比率で年金を増額する「物価スライド」という仕組みがあった。しかし、この法律で「現役世代の負担能力に応じた給付にする」ルールが定められ、物価が上がっても、現役世代の賃金が下がった場合、年金は減らされることになった。今年度の年金額が夫婦で1万円以上減らされるのはそのためだ。
経済ジャーナリストの荻原博子氏は、「年金生活者受難の時代がやって来る」と指摘する。
「これからインフレの時代に入ると、最も影響を受けるのは間違いなく年金生活者です。新ルールでは、物価がどんなに上昇しても、賃金が下がれば年金が減る。しかも、この場合の賃金は『実質賃金』をベースに計算されます。たとえ現役世代の給料がアップしても、それ以上に物価が上昇すれば実質賃金はマイナス。
一部の輸出企業は儲かって給料を上げていると言われますが、逆に、下請けの部品メーカーは円安で原材料費が上がって利益が削られている。日本の産業には下請け会社が多く、全体として賃金が上がるとは考えにくい。今後、高度成長期のような物価上昇率を上回る大幅な賃上げという奇跡的なことが起きない限り、年金支給額は減り続ける可能性が高い」