今般の国からの呼びかけは、スムーズに行き渡っていないというのが実情だ。組織論が専門で『同調圧力の正体』の著書がある同志社大学教授・太田肇氏は、熱中症リスクがあるなかでマスクを外す動きが広がらない背景に、国や自治体の呼びかけの弱さがあると指摘する。
「責任者の立場にある人間は、責任を追及されないかを第一に考えがちです。マスクを外して熱中症対策を行なうことと、それによる集団感染などの危険性や保護者や関係者からの批判を天秤にかけているのだと思います。そうしたこともあって呼びかけが強くならず、熱中症対策の方針を徹底できていないのではないか」
コロナ禍当初の国や自治体の自粛要請に比べて、今回の「熱中症対策のためにマスクを外す」という呼びかけが機能しないのはなぜだろうか。太田教授が続ける。
「当時の自粛要請では、国のみならず各都道府県、各市町村、専門家が一斉に強く呼びかけができていました。行政からの“タテ”の同調圧力が、大衆による“ヨコ”の同調圧力に浸透したかたちです。しかし、それに比べると今回はマスクを外すという発信に及び腰に見えます。マスクを着用すべきという発信には感染防止という大義名分があったわけですが、マスクを適宜外すという発信ではそれが十分に見出せていないのだと思います」
本来、熱中症対策は十分な「大義名分」のはずだが、それがうまく打ち出せていないなかでは、国だけではなく、各所からの発信と個人の利害に訴える客観的なデータが必要だと太田教授はみている。
「マスクを着用すべきという“ヨコ”の同調圧力が岩盤のように残っていて、適切な場面では外すべきという“タテ”方向の弱い圧力では突き崩せないでいる。この状況下では、行政に呼びかけを頼るのではなく、マスコミや政治から発信することが重要だと考えます。政治家やテレビ局のアナウンサーが、マスクを外していい場面で適切に外す姿を見せていくことが強力な発信になります。また、マスク着用時の呼気の温度や心臓の負担などの数値を示すなどして、夏の屋外でのマスク着用のリスクを目に見えるデータにすることが必要でしょう」
同調圧力ゆえに、炎天下で命のリスクが生じることがあってはならないだろう。