単なる妖怪コメディと言うなかれ。深夜ドラマからスタートして、ドラマ通からも非常に評価の高い『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)が映画化されて上映中。ドラマからウォッチし続けてきた小説家の宮木あや子さんが、その中でも注目するのはこの女優。宮木さん原作の舞台化で主演を務めてもらった縁があり、初対面では“罪悪感”を感じてしまったほどの理由。そしてこの映画に惹きつけられるポイントを寄稿してもらった。
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この文章は最終的に『映画 妖怪シェアハウス-白馬の王子様じゃないん怪-』のレビューになる。しかし主演の小芝風花さんやほかのメインキャストの方々の類稀なる怪演に関しては他の媒体でも語りつくされているはずなので、ここでは前振りとして、テレビシリーズ1stシーズン第二話に登場し、今回の映画でも番町皿屋敷の「お菊さん」役を担当されている佐津川愛美さんの話を先ずさせてほしい。
佐津川さんは「見るといる」タイプの役者である。最近ではバイプレイヤーという言葉が広く知られ、こういう「その人を目当てに観ているわけではないが、ドラマや映画を観てるとよくいる」役者の名前も沢山の人に認識されている。佐津川さんはその括りにいる役者だ。
私が「佐津川愛美」という名前を認識してから初めて観た彼女の出演作は、舞台『娼年』だった。儚く悲しい幻みたいな娘を演じる舞台上の彼女を、私は多大な罪悪感を抱きながら眺めていた。何故なら、こんな穢れなき無垢な少女を演じている人に、拙著(野良女)の舞台化で「陰茎の話ばっかりしてるアラサーの女サラリーマン」になってもらうことが決まっていたからである。
楽屋でご挨拶をさせてもらった際、その透明感と「顔の半分目じゃん! フランス人形じゃん!」みたいな容貌を目の当たりにし、罪悪感は頂点に達した。
「さすがにあの役をあなたに演じてもらうのは申し訳ないです」
「大丈夫です、どんな役でもできますから!」
この発言が、佐津川さん自身かマネージャーかどちらのものかは失念したが、約一年後、言葉どおり彼女は台詞の約五割が陰茎関連という舞台の主演を全力全開で務めてくれた。回を重ねるごとに評判を呼んだのか、初日は埋まっていなかった客席が、後半は通路にまで椅子を並べる満員御礼となり、千秋楽挨拶で舞台の真ん中に立った彼女は、主演の責を果たした安堵からか号泣した。
本来、佐津川愛美は真ん中に立たない役者なのだ。これは本人が「主演は苦手」と言っていたので間違いない。彼女の映像方面の芸歴には、物語における重要なキーマンや男性主人公作品のヒロイン役が多数存在するが、キャスト欄のトップに名前がクレジットされた作品はおそらくひとつ。そして視聴者の記憶にはきっと、役者名ではなく役名や役どころが残っているはずだ。徹底して彼女は役の「入れ物」であることを貫いているのである。
そろそろ本題に入りましょう。
『映画 妖怪シェアハウス-白馬の王子様じゃなかったん怪-』は、テレビシリーズの監督のひとりだった豊島圭介氏がメガホンを取り、脚本は同じくテレビシリーズから西荻弓絵氏が担当されている。私は拙著の映画化で豊島監督に、別の拙著のドラマ化で西荻先生にお世話になった経験があるため、なんとなく遠い親戚の家を愛慕するような気持ちでドラマを観ていた。
ご覧になっていない方のために簡単に説明すると、『妖怪シェアハウス』は、
①女のび太みたいな主人公(人間)が悪い人に騙される
②騙した人をやっつけるために、心優しい妖怪たちがドラえもんのごとくお手伝いしてくれる
③主人公ちょっとずつ成長する! ただし人間的にではなく妖怪的に!
という物語で、彼女を見守る心優しい妖怪の役を、松本まりか、大倉孝二、毎熊克哉、池谷のぶえ(敬称略)が演じている。なお2ndシーズンでは②と③の間に「実は騙してたほうも闇落ちした妖怪だった!」が入るのだが、普段は人間と共存している妖怪が、如何なる理由で闇落ちしたのか、ドラマでは明らかにされていなかったその原因が此度の映画で判明する。
職場で上司から激しいモラハラを受けつつも、主人公の澪は閻魔寺の裏にある妖怪シェアハウスで今日も楽しく生活を営んでいる。映画の作中は「人間との恋愛なんて時代遅れ! AIとの恋愛が最新トレンド!」という世界設定になっており、澪もAIと恋愛するアプリをスマホにインストールし、案の定どハマりした。しかしAI彼氏「つとむ」とラブラブな生活を送っていた矢先、現実世界に現れたつとむそっくりな見目麗しき白馬の王子様、ではなく全体的に白っぽい見た目の若い学者(白馬には乗ってないん怪)。
テレビシリーズの澪は、強姦未遂、ルッキズム、ネットリンチ、職場内虐待などあらゆるタイプのハラスメントに遭ってきた。これは彼女の気弱さ、事なかれ主義に起因するところもあるのだが、白っぽい学者のAITOは、そんな澪を一切否定することなく受け入れ、更に著作を読んで泣いてくれた。ふたりは瞬く間に恋に落ち、互いに生涯の伴侶となることを望む。しかし実は
※Caution! ここから先ネタバレを含みます※