アベノミクスの見直しから官僚人事まで、ことごとくぶつかり合う岸田文雄・首相と安倍晋三・元首相。だが、この2人が唯一、歩調を合わせられる政策があった。年金の支給額引き下げである。容赦ない「年金減額」を実践したのが安倍晋三・元首相だ。
8年間の長期政権でなんと年金を6.5%も引き下げたのである。第1次政権時代に「消えた年金」問題で煮え湯を飲まされた安倍氏は、政権に返り咲くとまず「年金特例水準」の解消に乗り出した。
これは自公政権が過去の物価下落時(2000~2002年)に「高齢者の生活に配慮する」と年金を引き下げずに据え置いたことで、受給額が本来の年金額より高くなっていたことだ。とはいえ、当時すでに20年近くが経ち、年金生活者にとって特例水準の年金額が生活の基準となっていた。
安倍政権はこれを、「もらいすぎ年金」と批判キャンペーンを張り、高支持率を背景に13年から3年間で2.5%減らした。それが終わると、2015年にはマクロ経済スライドを初めて発動した。
そして2016年に「年金減額法」を成立させ、物価が上がっても賃金が下がれば年金を減らす新たな年金減額の仕組みをつくった。
矢継ぎ早の高齢者狙い撃ちだ。年金制度の変遷に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。
「それだけではありません。安倍年金改革では、キャリーオーバーという仕組みを導入した。物価上昇率がマクロ経済スライドの0.9%より低かったり、物価が下がってスライド(減額)が発動できない場合、マイナス分を翌年以降に繰り越して、次に物価が上昇したときに一気に適用して年金を目減りさせる仕組みです。この導入で物価上昇と賃上げが同時に起きた場合も、年金アップが非常に難しくなった」
どこまでも年金は増やさないぞと網をかけたのだ。キャリーオーバー分を合わせると来年度のマクロ経済スライドは1.2%マイナスになる見込みだ。物価上昇率と賃上げがそれ以上の水準にならなければ、物価が上がっても年金は全く増えない。