“渡鬼ファミリー”がまたひとり、旅立った。名女優は最後の日々をどう過ごしていたのか。彼女を慕う人々の証言から、「おひとりさま暮らし」の実像が見えてきた。
「歯に衣着せぬお話は、江戸っ子気質があふれていました。どれも楽しい、面白おかしい記憶ばかりです。でも、もうあの高い声が聴けなくなったと思うと、涙が止まらなくなるんです……」
泉ピン子(74才)が涙ながらに振り返るのは、「野村お母さん」と呼んで慕った先輩女優・野村昭子さん(享年95)との思い出だ。彼女ほど「名脇役」の名にふさわしい女優はいない。
古くは黒澤明監督の映画『赤ひげ』(1965年)やNHK連続テレビ小説『おはなはん』(1966年)にも出演。名前は知らなくても、顔を見ればわかる、そんな女優だった。『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)には、小料理屋「おかくら」で働く青山タキ役として、21年にわたって出演。『家政婦は見た!』(テレビ朝日系)では、家政婦紹介所の所長役として、25年にわたり出演を重ねた。
東京・港区にある野村さんの自宅ビル前に救急車が駆け付けたのは、都内の最高気温が37℃を記録した7月1日の夜のことだった。野村さんと親しい近隣住民から親族に「最近、野村さんを見ていない」との連絡があり、甥と警察が自宅を訪れたところ、ベッドルームで倒れて帰らぬ人となった彼女を発見したという。
死因は熱中症とみられており、東京に「熱中症警戒アラート」が発表された灼熱のなかでの悲劇だった。森川内科クリニック理事長で医師の森川高司さんが解説する。
「死因は睡眠時の熱中症の可能性が高いと思われます。高齢者は、熱さ寒さの感覚が鈍くなることや発汗機能が衰えることで、自覚なく熱中症になりやすい。さらに、夜間に尿意を催すのが嫌だという理由で水分を控えると、ますますリスクが高まります。死に至るケースでは多臓器不全を起こしていることが多く、高齢の場合は高熱のなかで意識を失っているケースがほとんどで、亡くなるときはあまり苦しくはないはずです」
実際に夜間に熱中症で亡くなるケースは少なくない。東京都監察医務院によると2020年の8月1〜17日の間に、東京都では50〜90代以上の103人が熱中症で亡くなっている。そのうち、死亡推定時刻が夜間だったのは39人、日中が33人、不明が31人と、夜間に亡くなる人が最も多かった。