シンガー・ソングライターの吉田拓郎(76)がラストアルバム『ah―面白かった』を発表。このまま一線を退くという。1970年代に青春を過ごしたかつての若者たちは、どんな想いで見送るのだろう。
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経済アナリストで獨協大学経済学部教授の森永卓郎氏(64)が拓郎の歌に出会ったのは、中学生の時だった。
「1970年代のはじめ、爆発的なフォークブームがやってきて、当時の中学生男子はみんなギターを持って歌っていた。なかでも別格として存在したのが拓郎さんでした。私も傷が入って商品にならないフォークギターをヤマハに勤務していた叔父に格安で売ってもらい、独学でギターを覚えました。
友達の家に集まっては『Fのコードはこうだ』とかチューニングの仕方とかを教え合い、拓郎さんの曲を練習しました。拓郎さんの曲は気持ちいいメロディなのに音域が狭いので、中学生にも歌いやすかったんです。
なかでもよく歌ったのが『人間なんて』(1971年)でした。シンプルな3つのコードだけで歌詞を延々と繰り返していく。我々は団塊の世代と第2次ベビーブーム世代に挟まれて、学生運動をしていたわけでもなければ新人類でもない中途半端な世代です。この歌の歌詞は、そんな悩める我々世代にマッチしていました。
大人になってから、拓郎さんの反権力のメッセージソングに多大な影響を受けたことが、政権の経済政策のおかしさを追及する私の原点になっているのだと思います」
拓郎の歌は、いつでも彼を青春時代に連れ戻す。
「当時は彼女を作るのが今よりも難しい時代で、友達の家に泊まり込んでは学年のマドンナだった女子生徒の話をしたりしながら、みんなでこの曲を絶唱したものです。
実は10年ほど前に、そのマドンナが長野県の旅館の女将をされていると聞きつけて、車で5時間かけて彼女に会いに行きました。ご結婚もされていて、数十年の時を経てもやっぱり綺麗な方でした。中学時代から妖艶な雰囲気が漂っていて、今のタレントでいう壇蜜さんのようなタイプ。当時は高嶺の花で誰も告白できなかったから、“当時は誰とつき合っていたのか”が知りたかったんです。誰ともつき合っていなかったというので、なんだそうだったのか……と(笑)。
その夜は旅館のカラオケルームを借り、ギターを持ち込んで『人間なんて』を弾き語りしました。ギターは滅多に弾かなくなっていましたが、『人間なんて』はコードが3つだけだから今でも弾けるんです」(森永氏)
※週刊ポスト2022年7月22日号