国内

「のみすぎ」の弊害わかっていても断薬できない… 背景にある依存と不安感

(写真/アフロ)

断薬できない心理背景とは(写真/アフロ)

《6種類以上の薬で副作用の頻度が上がる》《5種類以上を服用する高齢者の4割以上にふらつきや転倒が起きている》

 これらの文言は、厚生労働省がとりまとめた「高齢者の医薬品適正使用の指針」を一部抜粋したもの。こうした“薬ののみすぎ”がもたらす弊害は、以前から繰り返し指摘されており、退院時に2種類以上の薬を減らすことができれば診療報酬が加算されるなど、国を挙げて減薬への取り組みが進んでいる。

 にもかかわらず、今年6月に発表された統計によれば75才以上の4割が5種類以上、4人に1人が7種類以上の薬を服用している状況だ。ドラッグストアやネット通販で24時間手に入る市販薬も同様に、大量服用や副作用をめぐる問題が再三にわたって指摘されている。

 薬ののみすぎは毒になる──エビデンスや臨床データ、現場の医師たちの声からそのことが明らかになっている現実を前に、なぜ薬を断つことができないのか。全国の医師と連携して減薬に取り組む名古屋経済大学准教授で管理栄養士の早川麻理子さんが指摘する。

「大きな理由の1つは“命の綱”だと思い込んで、無意識のうちに依存してしまうこと。特に高齢になれば食欲の減退や歯の衰えで食事量が減り、筋肉が減って体が衰弱してくる。すると“このまま体が弱っていったらどうしよう”という不安が生じ、“せめて薬だけはのもう”と考えるようになる。こうした心理に加え、『薬をのまなければ症状が悪化するかもしれない』という不安も薬への依存に拍車をかけていると考えられます」(早川さん)

 見た目は薬だが有効成分を含まない「偽薬」を販売するプラセボ製薬の代表・水口直樹さんも減薬できない心理の背景には「不安感」があると話す。

「これまで『薬を減らせない、手放せない』と悩む顧客の声を数多く聞いてきましたが、理由は薬をのまないと入眠できなかったり、痛みや不快感が出てしまうことへの不安が大半でした」(水口さん)

 水口さんによれば、症状を抑え込みたい気持ちが募るあまり、より強い効果を求めて服用量が増えてしまう事例もあったという。

「実際、高齢者が処方量以上の薬を欲しがって、それをいさめる家族に暴力をふるっていたケースもありました。

 しかし、そもそもほとんどの病気において薬は一時的に症状を抑える“対症療法”でしかありません。特に糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病は、食生活や運動不足を改善しない限り薬をのんでも根治することはありえない。患者は長い期間薬をのみ続けることになり、それによって製薬業界が利益を得るビジネスモデルが出来上がっていることも、大きな問題です」(水口さん)

※女性セブン2022年7月21日号

断薬できない負のサイクル

断薬できない負のサイクル

高齢患者の4分の1が7種類以上処方

高齢患者の4分の1が7種類以上処方

日本における医療費の推移

日本における医療費の推移

偽薬によって断薬が成功した例

偽薬によって断薬が成功した例

ケース別断薬体験談

ケース別断薬体験談

関連キーワード

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン