連合が発表した2022年春闘の最終集計結果によると、ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ率が2.07%で3年ぶりに2%を上回った。新型コロナウイルス禍前の水準となり一息つけそうな雰囲気に見えるが、増税と物価高騰で相殺されかねない現実がある。実際に給与所得者たちはどんな実感を抱いているのか。俳人で著作家の日野百草氏が、ますます不穏になる時代、働き盛りの40代サラリーマンたちから昇給についての実感を聞いた。
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「昇給したはずなのに手取りがほとんど増えません。使える金が減っている」
関東の中堅物流会社で事務職をする40代独身男性サラリーマンからの相談。週末金曜日、社会問題に興味のある勤め人の集まる会での話だったが、安倍晋三元内閣総理大臣の銃撃事件のニュースがスマホに流れる中での話となった。容疑者は41歳、ここにいる方々よりは年下だが、「40代と聞くとドキリとするね」と声をひそめる。みな団塊ジュニア、ポスト団塊ジュニア世代である。
「もう一生こうなんですかね」
彼は昇給しても手取りが増えない、使える金が減っていると語る。仮に彼をAさんとする。結婚願望はあるが半ば諦めているとも。
「10年以上前から手取りが増えません。額面では少ないながらも上がってるはずなんですけどね。ボーナスは夏冬で各2ヶ月、というところです」
会社や業種、年齢によって引かれる額は変わるが、Aさんの年収は約450万円。OECD(経済協力開発機構)の「世界の平均賃金」でいえば日本人の平均とされる年収445万3,314円とほぼ同じということになる。
「平均といってもこの年で手取り月20万円ちょっとですよ、40歳も過ぎてこんな収入のおじさんになるなんて思いませんでした」
確かに男性平均である482万6,514円よりは少し低い。もちろんこの平均賃金は男女、正規非正規すべてひっくるめた数字なので正社員男性、などの属性でくくると実際はさらに上がるが、安定した正社員の男性事務職という面からすれば、もっと低い賃金で働く方々、とくに地方からすればAさんは独身ということも含め恵まれていると思われる額かもしれない。
「でも上の世代はもっと貰っていたはずですし、社会保険とか年金とかも低くて引かれる額が少ない分、手取りも実際に使えるお金もずっと多かったはずです」
これは団塊世代から上を知る世代にとっての実感だろう。それなりの会社のサラリーマンになれば年収はもちろん手取りも年齢とともに上がるはずだった。妻と複数の子どもを養う当たり前の家庭、それは大企業のエリートや成功した自営業でなくとも可能だった。可処分所得、とくに実質可処分所得(後述)も現代より大きかった。