例年より早く梅雨が明けたと思ったら、猛暑が続く昨今。エアコンが効いた涼しい部屋で読書でもして、過ごしたいところ。この夏におすすめしたい新刊4冊を紹介する。
『破れ星、流れた』/倉本聰/幻冬舎/1980円
倉本氏は1935年生まれ。学童疎開、敗戦後の闇市などを知るが、この初の自伝には独自の体温がある。“子供の眼”が効いているのだ。父の愛に包まれた子供時代、勉強はそっちのけで映画や演劇に夢中になった麻布-東大時代、ニッポン放送に入り副業(脚本書き)でパンク、独立するまでを綴る。凍えたり笑ったり落涙したり。インテリ臭のない回想が成長小説風。続編も楽しみ。
『道』/白石一文/小学館/2200円
娘を交通事故で失い鬱に沈んだ妻の渚。夫の功一郎には秘密があった。高校受験に失敗した41年前“高校に受かり一橋大に進学、バツイチ後、渚と再婚して娘を持つ”人生に移行していたのだ。功一郎は昔と同じ絵の前に立ち、娘が事故に遭う寸前に移行するが……。大部ながら脳が発火して一気読み。多元宇宙の“時空の箱”を、仕事や生活のリアリズムで埋め尽くす手法が凄い。
『むらさきのスカートの女』/今村夏子/朝日文庫/682円
商店街の名物的存在であるむらさきのスカートの女。主人公の語り手の女性は彼女から目が離せない。住まいを突き止め、バイトの有無の波を計測し、自分の職場(ホテル清掃)で働くよう誘導し、ついに距離がぐっと近くなる機会が訪れるが……。彼女だけを語って自分を一切語らない語り手の不穏さが、この芥川賞作のすぐれた技巧部分。9編の受賞記念エッセイも味わい深い。
『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』/文と絵、金井真紀/ちくま文庫/858円
職業図鑑のようだった名著『仕事!』。10代で読み感激した著者の記念すべき作家デビュー作の文庫化で、『仕事!』の日本版のようだが、牛飼い、気象予報士、水泳選手、料理人など見開きに一職業で読みやすい。絵も効果的で、緊縛師の項では「縄は茹でてから使う」とある鍋と縄の絵に笑う。ユーチューバーに憧れる子供達に伝えたい。人気者だけではなく仕事師もいいもんだよ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年7月21日号