大河ドラマなどの合戦シーンは、多くの人馬が入り乱れる。そのため、一つ間違うと人間も馬も大けがを負いかねない。それを防ぐための安全はいかに留意されているのか。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を始めとする多くの映像作品で馬術指導を担当するラングラーランチの田中光法氏に話を聞いた。
* * *
田中:馬の出てくるシーンは、安全の上に成り立ってないと絶対に駄目だということは、必ず言ってきました。ですから、ロケ地の下見には必ず僕も行きます。
馬がここを走れるかどうかの確認が必要なんです。この足場だと難しいから、もう少し整地してほしい、草を刈ってほしいといったことを伝えるために、僕らもロケハンに参加しています。
――撮影当日にいきなりロケ地に行ってみてから、ここは馬が危ない、ここは人が落ちたら危険、と気づいても手遅れですからね。
田中:そうです、遅いんです。だから、前もって僕は美術下見と技術下見、二回呼ばれるんです。技術下見のときには、プロデューサー、監督が来て「カットをこう撮りたい」という要望に対して「ここをこの役者で走らせるのは厳しいから代役の役者にしましょう」など、そういったことまで綿密に打ち合わせをします。
役者も全員、一度はうちのクラブに練習しに来るので、その中で技量を見極めていきます。その上で「この人はこの馬に乗せよう」ということまで決める。相性もありますから。
また、そのシーンで要求される内容によって馬を決めることもあります。「こういう撮影ならこの馬がいいだろう」ということを決めるのも仕事です。
僕が「ここでの撮影は危険」「この俳優ではNG」と言うと、NHK側もきちんと聞いてくれます。その信頼関係も大事なんだと思います。一般の方たちが見ても、「ここまでは大丈夫」「ここから先が危ない」という判断はつきません。その判断ができるのは僕らしかいない。
――重要な責任を背負われているのですね。
田中:ですから、馬をケガさせない、乗り手もケガさせないというのが僕の仕事です。そうやって安全を絶対に確保した中で、一番いい画を撮る。それが僕に課せられている仕事なんだろうなと思います。
そこは絶対に、一切の手を抜かないようにしています。どれだけ長年やってきても、そこは初心に返り、必ずやっているんです。駄目なものは駄目と、はっきり言ってあげることが、いずれは役者さんの命を守ることにも繋がるので。馬の命だけではないんです。